安東能明『鬼子母神』
【送料無料】鬼子母神 2001年の第一回ホラーサスペンス大賞の特別賞受賞作。なぜに今これなのかというと、ちょっと「代理によるミュンヒハウゼン症候群」に興味があったからなのね。簡単に言うと「けなげな母親であり続けるために子どもをわざと病気にする親」のことです。 この本を知ったのは、受賞後すぐドラマ化されたからなのですが、あんまり面白いとは思わなかったな。でも、「ミュンヒハウゼン」という言葉とその症状についてはすごく覚えていました。 保健センターに勤める保健婦(この頃は保健師ではなかった)の公恵は3歳児検診で渡井敦子とその娘に出会う。夫の暴力に怯え、自身も胸を患い、高熱を出す娘を抱えている敦子に公恵は同情し、なんとか力になってやれないかと奔走する。敦子の夫、昭夫の執拗な嫌がらせが始まり、元々拒食症を抱えている公恵は不安な日々が続くのだった。。。。 ネタを知っていて読んだからか、あまりぞくぞくしませんでしたねえ。展開は「黒い家」に似ているのですが、かなり稚拙と言わざるを得ません。 一番大きいのは、公恵さんに少しも共感できないことです。冒頭から自分の娘をないがしろにする場面が出るのですが、いくら病気とはいえ、保健婦さんがそんなことしているのってねえ。いや、そういう場合もあるかもしれないけど、この描き方ではただの嫌な女でしかない。 展開に無理があることが多すぎます。なぜ公恵さんはふらふらと歩いているだけで、「現場」にたどり着いてしまうのか。第一発見者になぜなってしまうのか、とかいろいろ。 肝心な「代理によるミュンヒハウゼン症候群」も、突然現れた医者の口からあっさりと登場するし、一番身近だった同僚の口から詳しすぎる解説が飛び出すなど、このときは新人だったからしかたないかもしれないとはいえ、文章にもアラが目立ちますね。 審査員もたいへんだよなあと思ったり。 それでも、この病気への着眼という新しさは賞に値するものだったと思います。 ほんとはもっとたくさんいるんだろうな。ものすごく見抜くのに難儀な症例らしいですから。子どもしか自分の存在を証明できない母親が増えている今は、もっと増えているのだろうと、そう思ったときに初めてぞくっとしました。