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カテゴリ:読書記録

あるキング

 伊坂氏が「自分が読みたい小説」として書いた昨年の作品。

 野球界に彗星のごとく現れた天才の一生といえばいいのでしょうか。地方都市の万年ビリの球団をこよなく愛す夫婦のもとに生まれてきた男、山田王求(おうく)。熱狂的な両親のもとで天才としての活躍をするのですが、あまりに他との遊離が激しく、多くの妬みや反感を買います。それでも王求は自分の道を進みます。

 今の日本の中で王と呼ばれるのは打点王とかホームラン王とか、野球界にしかないという発想がまず面白いです。マクベスの台詞や3人の魔女たちや、伝説の選手の亡霊や、獣と化した同級生の父親など、絶対にありえない登場人物たちがとても効果的です。まるで舞台を見ているようです。

 マクベスはずいぶん若いときに読んだきりで細かいところまで覚えていないのが残念なのですけれども、シェークスピアの台詞はやはりすごいですねえ。それを作中に挿入させても違和感がない。さすが伊坂氏です。

 文体は二人称だったり(これは重松の『疾走』でも使われましたが、ラストの方で語り手が分かります)、一人称の同級生だったり、まったくの3人称だったりしていろんな角度で王求について語られます。

 王求の天才としての能力、誇り高さはまさに王の品格です。
 カリスマ的な存在を待ち望んでいる現代の人々は案外多いのではないでしょうか。伊坂氏の作品にはよくそういうカリスマが登場します。

 殺人事件や暴力シーンもあるのに、抵抗無く読ませてしまう。そして否が応でも現実の問題に向き合わせてしまう。そこが軽いだけのほかの作家と決定的に違うところです。

 それと、どんな端役にもきちんとした役割を割り振る丁寧さも、読者を惹きつけるのでしょうね。直木賞なんかなくても立派にこれからも書籍界をリードしていくのでしょうね。

 映画「ゴールデンスランバー」もいよいよ公開です。今度こそ見に行こうっと。







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最終更新日  2010年01月31日 19時35分55秒
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