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カテゴリ:読書記録
リアル・シンデレラ 直木賞を逃した作品ですが、これはとってもおかしくない出来映えだったと思います。(上から目線) 信州の温泉旅館の元女将のお話です。女将といってもほとんど畑仕事や布わらじ作りをしていて、裏方に徹した女性です。夫に愛人ができるとさっさと彼女に女将の座を渡し、自分は粗末な離れで暮らします。 その女性がどういった環境で育ったかを周囲の人への取材を通して浮かび上がらせるというドキュメンタリー仕立てにしています。姫野さんはこうした凝った手法をよく使いますね。 「ツ・イ・ラ・ク」の主人公がブスなのか美人なのか全くわからなかったと前に感想で書いたことがありますが、今回の泉(せん)さんについては上手に表現されています。特定の地域では「美人」についての基準が他と異なるってことってありますね。地元では誰もが美人と讃えた妹は「スタンダード」で、泉のほうがよほど「綺麗」だと東京の男たちは言います。 万田久子さんを初めて見たときは、どうして彼女が美人といわれるのか分かりませんでした。でも何年かしてやっと、「ああ、こういう人が素敵な女性」といわれるのだなあと思えるようになりました。泉は万田さんのような感じかなと思いながら読みました。 「シンデレラ」の主人公は目立たない、という発想から始まった物語。常に裏方に徹し、他の人の喜びを自分の喜びと感じられる人が、本当の「幸せになりました」ということなのですね。 ひとり、脳裏に浮かぶ女性がいます。 学生寮でいっしょだった彼女と夜中にラーメン屋さんで語ることが多くありました。彼女は下級生の誰それが誰それと付き合っているという話を聞くと、 ああ、うれしいねえ。同じ寮の中に、幸せな人がまた一人増えたのねえ。 と、うっとりと語ったものでした。当時札付きのひねくれ者だった自分は、「こんな人がこの世にいるのか」と衝撃を受けたことを覚えています。 自分はこの年になってもまだ当時の彼女の足元にも及びませんね。はい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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