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2011年03月20日
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カテゴリ:読書記録


 安達さんの一昨年の作品。「見憶えのある場所」の頃に比べるとずいぶんと文体が変わったなあと思います。私としては、読みにくかったあの頃のほうが好きなんですけどね。

 フリーのアナウンサーをしている雪乃に依頼されたのは、亡くなった女性の身代わりになって余命いくばくも無い父親のもとを訪れてほしいというものだった。千勢というその女性と声がそっくりだというのだ。

 地図製作の会社を経営していた信三という老人はうっすらとしか目が見えない。雪乃を千勢と思い込んで、鏡花を朗読してくれと頼む。意識も千勢がまだ結婚する前にあるらしい。

 次第に千勢の生き様に触れることになる雪乃もまた、カレンという名の血の繋がらない姉を事故で亡くすという過去をもっており、生前に親しむことができなかったことをずっと悔いていた。花蓮という地名が書かれたメモが見つかったことなどから、カレンへの思い、今はマニラに住む両親への思いが複雑に絡んでくる。


 ストーリーはほとんどなく、登場人物も限られています。ほとんどは模索する思考の中で、亡くなった人々への罪悪感を持ち続ける残された人々の内面が描かれています。

 
 どうしてか、他人のこととなると、楽観と、希望的観測が、容易にできてしまう。たいていの人は、他人を励ますことに長けている。

 だが肝心な自分の姿は見えない。だから誰かに話を聴いて欲しくて、自分がどんな姿をしているか、教えてもらいたがる。
 
 そして、こちらの過去の記憶や弱気にとらわれない、どこか無責任な、他人の言葉に、望みを見出す。

 人がひとりでは生きていけない理由のひとつに、そのこともふくまれているのではと雪乃は思う。


 ああ、やはりこうして書き出してみるといいねえ。

 安達さんは詩人なのではないかしらん。長い長い散文詩だと思って読むことをお勧めします。


 いつかレビューで安達さんのを書きたいと思っているのですが、介護に関連するものを書いてくれないかなあ。こんなにしなやかで強い文章を多くの人に読んでもらいたいです。





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最終更新日  2011年03月20日 10時55分05秒
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