ウクライナの栄光は滅びず
自由も然り
麻生氏の「戦える自衛隊・憲法改正・反撃能力(敵基地攻撃)」主張は、ドツボにハマった愚論である。北朝鮮の核ミサイルの脅威、台湾有事を想定してのことだが。自衛隊は、当然にして専守防衛のために「特別軍事作戦?!」ができるのだ。平和憲法の改正をするまでもなく。自民党・維新らは、日本国民を「平和ボケ」と揶揄しがちだが、俺に言わせば、「平和ボケ」しているのは彼ら現為政者たち(維新も含む)だと思っているよ。「戦える自衛隊」とは何ぞや。幕末の「海防論」を現代的に見直してみたら。
ブログ短編小説『ウクライナ・シールド突撃部隊』2
建物の全体が崩落し、わずかに躯体の骨格が残っていた。一階のエントランスから見える街並みは、完璧に廃墟だった。
「分隊長。“荷物”はいつ届きます?」まだ20歳に満たないウクライナ兵が、俺に聞いてきた。
「夜中だ」俺はそう答え腕時計を見た。6時間後か――
幸いなことにロシア・ワグネルの囚人兵の突撃は、陽が地平線の彼方に隠れ、敵の砲撃が止むと同時に闇に消えている。
もう一つ幸いなことに、陽が暮れると天空は厚い雲に覆われていった。運があるぞ!
「皆に伝えてくれ。“荷物”が届くまで冷たいディナーを摂り仮眠せよ。俺が敵を監視している」暗視ゴーグルを着けて、俺はインカムで命じた。
俺の分隊は、外国人義勇兵と、この分隊に志願したウクライナ兵の半々で構成されている。俺を含め6人である。激戦地バフムト市街戦のための特殊攻撃分隊である。と言っても、昨日、俺の分隊はこの廃墟と化した街区に来たばかりだ。敵は明らかに中隊規模のワグネル囚人部隊である。だが、瓦礫が埋める街路のところどころに敵の死体が見えている。ウクライナ戦争軍事ユーチューブとかで評価されている通り、敵の損耗はかなりのようだ。俺はウクライナ外国人義勇部隊の本部から、直接聞いているが……ロシア軍はバフムトに精鋭部隊を送り込んでいると。
三角形に崩壊しているエントランスから、時々、俺は暗視ゴーグルで街区の廃墟群に目をやっていた。敵の姿は見えない。俺の分隊と同じく、飯を食って休んでいるのだろう。だが奴らは、きっと賞味期限切れの豚のエサにした方がいい残飯だろう。
夜半過ぎだった。インカムに連絡が入った。
「あと5分でそこに着く。エントランスに車を寄せる」戦闘装甲輸送車の隊長からだった。彼も外国人義勇兵で、英国人である。つまり、この分隊の言語は英語である。この分隊に志願したウクライナ兵たちは、片言の英語ができる。俺もそうだが。
「了解。エントランスで待機している」俺は答えた。インカムの周波数は、輸送車と分隊だけが使っているから、敵に知れることはない。
「全員、俺のところに来い。輸送車が、間もなく到着する」俺がインカムに告げると、
「了解」と部下たちから返事があった。
ほどなくジーゼル音を立て、3台の装甲輸送車が列をつくってやって来た。夜陰に装甲輸送車が立てる音が、目を覚ます轟音となって近づいた。
俺と5人は、崩れた窓から暗視ゴーグルで見張り、ライフル銃を構えた。
最前列の装甲輸送車の機銃が吠えた。
「前方100mの建物に敵がうようよ見えるぞ! GO!」装甲輸送車の隊長がインカムに命じた。3台の装甲輸送車から“荷物”を盾にして外国人義勇兵たちがエントランスに走って来た。その刹那、敵の銃撃音が轟いた。エントランスのコンクリート壁をバシバシとえぐる。
「全員反撃せよ!」俺は怒鳴った。敵は全員ではないが、暗視ゴーグルで見て撃っているのだ。だが、装甲車の機関砲、機関銃が敵を圧倒し、“荷物”が盾になって、増員の兵士たちが無事にエントランス内に入って来た。
「こちらは戻る。栄光あれ!」装甲輸送車の隊長がインカムで告げた。
「栄光あれ!」俺は短く答えた。
装甲輸送車が後ずさりしながら、去って行った。それと機を同じくして、敵からの銃撃が止んだ。再び寂とした暗夜となった。
装甲輸送車から新たに6人の特殊攻撃兵士が加わり、俺の指揮下に入った。皆がハグをして合流したのだ。
俺は全員に言った。
「早朝から敵はイナゴの群れとなって襲ってくる。接近戦だから敵の砲撃はない。味方の援護砲撃もだが。この特殊攻撃分隊は、100m前方の敵を駆逐する。左右から突撃だ。突撃と言っても、この特製の防弾シールド(防弾盾)6個が俺たちを守るはずだ。待ちに待った“荷物”だ」
機関銃弾、ライフル銃弾をも通さない防弾シールド(盾)である。先頭の突撃兵士ら6人が防弾シールドを盾にし、防弾覗き窓(特殊ガラス)の中央部から突撃ライフル銃を狙い撃ちしつつ、敵の攻撃を潰していくことになる。既製のものでも靴部を除いて全身を防御できる。手榴弾の爆裂にも耐えられるのだ。上半身の中央部を守る防弾ベストだけでは、頼りない。身をかがめて全身を敵弾から防御する防弾シールド(盾)、それもライフル銃弾、機関銃弾を通さない性能の防弾シールドである。俺が思いついて作らせた防弾シールドが特製なのは――防弾ガラスの銃眼は、銃身が出せるほどの小さな円形だ。防弾シールドから両肩に担ぐ金具がついている。盾の内側サイドに取っ手もある――ことである。このような防弾シールドが戦闘用に開発され、使用されていないのには理由があった。歩兵の機動性に欠けるからだ。それは俺の考えと違う。攻撃歩兵の消耗を少なくし、突撃攻撃の確実性と迅速性を高めるはずだ。
俺は命じた。
「早朝0500に100m前方の敵を殲滅する。2時間後だ。俺たちに栄光あれ!」
全員が答えた。
「俺たちに栄光あれ!」
敵の潜む崩壊した街の東の空が白み始めた。俺は腕時計を見た。0500。
俺は部下たちにインカムで命じた。
「GO! GO!」
俺の分隊6名は、右側の崩壊した建物に沿って走り出した。防弾シールド(盾)を構えた俺を先頭に縦列で続いた。俺の後ろに防弾シールドを持たない若いウクライナ兵士がぴったりとついている。
この特製防弾シールドには、上部と下部に銃眼用に覗き窓がついている。何が特製なのか、説明を加えたい。既製の防弾シールド、防弾性能が優れているものであり、高価な分だけ重量は20kgと重い。盾だから、タテにして使用するのが普通だが、俺はヨコにしても使えるようにしたのだ。しかも防弾覗き窓ガラスから銃口を出し撃つことができるように。銃眼の大きさは直径5cm。この防弾シールドをヨコにすれば、兵士2名が伏せて銃撃できる。
俺が30mほど走ると、前方からライフル銃の銃弾がバラバラと防弾シールドに当たってきた。その時、俺の分隊は防弾シールド3台を斜めに分散展開した。最後尾で防弾シールドを構えている兵士たちは、狙撃が専門の2人である。盾をヨコにし、2人が背後から狙撃支援するのだ。
俺も、俺の分隊も反撃した。
「さらに30m走る」俺はインカムに怒鳴った。廃墟に潜む敵が、俺に集中して撃ってきた。
接近戦、白兵戦では、敵味方交互にライフル銃を撃つときだけ体半分、正確には免許証の写真大の上半身を現すのだ。敵を効果的に撃つには、「その時」である。
「敵2名を駆逐した」最後尾の部下から声が入った。俺の作戦通りの効果があった。
「おとりの俺たちは前進する」俺が言うと、前方と左右から敵の銃弾が立て続けに防弾シールドに当たった。俺と後ろの部下がその場に伏せ、前方の敵めがけ連射する。敵に当たったかどうかは分からない。
最後尾の部下の声がインカムに入った。
「前方の敵3名殲滅。左方の敵2名殲滅」
左側から前進している部下からも声が入った。
「分隊長。左方の敵3名黙らせた」
俺はニヤリとして告げた。いや怒鳴った。双方の射撃音が騒音状態となっているからだ。
「これから一気に目標の一街区の敵を駆逐だ!」そう告げて、俺は防弾シールドを立てて、集合住宅の壁に沿って走った。敵の銃撃が激しくなってきた。防弾ガラス越しに、前方の窓のあちこちから撃つ敵の黒い影が見えてきた。
敵が占拠している建物のエントランスに迫った。敵意兵はいない。
「俺たちは建物内に突入する」俺は声を大にしてエントランスの前に、防弾シールドを立てた。奥の方から束になって、銃弾が防弾シールドに当たっている。俺は手榴弾2個を立て続けに投げた。そして防弾シールドとともに伏せた。後ろから防弾シールドを構えた部下が、機関銃を奥に連射して俺の傍を越えて行った。俺は彼らを援護した。敵の姿は見えないが。
エントランスの向こうは、だだっ広い駐車場の空間だが、崩れ落ちた天井からのガラが床を埋めている。と言っても、敵兵が身を隠すものではない。
「分隊長。この駐車場の敵兵を排除した。これから上階に行く」
「了解した。俺たちも行く」俺は答えて奥へと歩を向けた。
駐車場の奥に行くと、白い腕章をつけたロシア兵の死体が転がっていた。10数人か。俺は後ろのウクライナ兵に言った。
「敵の死体から、ライフル銃弾、機関銃弾、手榴弾等を確保せよ」俺たちが使用しているライフル銃類は、ロシア軍と同じものだったからだ。俺と部下は、死体の防弾ベスト帯から弾倉、手榴弾を盗んでいった。多すぎると思った時、部下が敵兵が使用していたリュック二つを見つけた。
上階部から銃撃音が響いている。この5階建ての建物は、敵の砲撃で大半が崩壊していたが、階段部は辛うじて残っていた。
上階部からの銃撃音は止むことがなかった。俺は階段を上って行った。
「上はどうなっている?」インカムで聞いた。
「数十人のロシア兵と撃ち合いになっています。手榴弾は切れました。敵も切れたようです」
「今行く」俺は答えて、一気に2階フロア―に立った。撃ち合いは奥の方だった。防弾シールドを立てて走った。ウクライナ兵も俺の背、後ろに続いた。
俺のインカムに、左方から建物内に入った分隊からの連絡が入った。
「こちらは3階のロシア兵20数名を駆除しました。これから上階に行きます」運よく階段部は2か所だった。
俺は聞いた。
「弾薬はあるのか?」
「弾倉の残りは、4人で5個です。手榴弾も5個ですが、ロシア兵の死体からかなりのプレゼントがありそうです」英国からの外国人義勇兵がそう答えた。
「俺は盗んだが、プレゼントされなかったよ」と俺が言うと、
「分隊長。今、銃弾をプレゼントされまくっています」と彼が答えた。
俺の12人の分隊は小一時間もかからず、この建物にこもっていた約100名ほどのロシア兵を殲滅した。ロシア兵は一人も白旗をかざし投降しなかった。戦闘ぶりをみても、ここのロシア兵は精鋭部隊に違いない、と思った。そして俺は呟いた――投降されなくて良かった。捕虜を連れての安全な撤退は無理。
「分隊長。特製防弾シールドは百人力です。死傷者はゼロです」別分隊からそう連絡があった。俺には安堵する余裕はなかった。急峻な登山もそうだが、帰りが怖いからだ。無事戻るまで――
「分隊長。敵の砲撃が始まりそうです。奴らの無線から聞こえました」傍にいたウクライナ兵が言った。
「皆、全員、ここから撤退する。元の場所へ、だ! 急いでくれ!」俺は命じた。
「狙撃班、了解。今は安全です」建物の外にいた狙撃兵がインカムで言った。
「皆に告げる。防弾シールド3台で囲みをつくり、逃げよ。近くに砲弾が落ちたら、防弾シールドの下に隠れろ」俺は事前に伝えていたが、念を押した。
「了解」
俺の分隊が建物から後退している最中、ロシア軍の大音響の砲撃音が聞こえた。
「砲弾に備えよ!」
俺の分隊6人は、2台の防弾シールドを側面に立て、頭上に1台を掲げた。榴弾砲弾が50m近くに落ちた。続けてロシア精鋭兵が斃れている建物に落ちた。建物が粉々になり噴煙を上げていた。頭上の防弾シールドに何かが当たって傍に落ちた。それは軍靴を履いたロシア兵の片足だった。
「急げ! あと30mだ!」俺が叫んだ。砲弾の唸り音が聞こえた。
「伏せろ!」俺と部下は防弾シールドを屋根にし、5人とともに防弾シールドの下に潜った。榴弾砲弾が15mほど近くに落ちた。爆風とともに瓦礫が屋根に降り注いだ。防弾シールドが耐えた。
「急げ!」
俺たち分隊が一団となって、拠点のエントランスに飛び込んだ。別働の分隊がそこにいた。
俺たちの背後遠くから、味方の砲撃音が聞こえた。いつもの砲撃戦である。
「さあこれから戦闘装甲車両で、ここから逃げるぞ!」俺は腕時計を見やり言った。
俺のインカムに声が入った。戦闘装甲車両の隊長からだった。
「建物の裏に着いた」
俺は皆に命じた。
「エントランスでなく、建物の西側から脱出だ! 車両が待っている!」
(つづく)