ウクライナの栄光は滅びず
自由も然り
【反転総攻撃が開始された】
栄光あれ!
『命の木に対する権利を与えられ、門を通って都に入れるように、自分の衣を洗い清める者は幸いである。犬のような者、魔術を使う者、みだらなことをする者、すべて偽りを好み、また行う者は都の外にいる。』
ヨハネの黙示録22.14
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ブログ短編小説『ザポリージャの森』2
この一連のブログ短編小説の主人公は「俺」である。
「俺」はウクライナ外国人義勇軍に志願し、現在、その分隊長の任にあたっている。だが「俺」は、国籍も年齢も、さらには如何なる想いで外国人義勇兵になったかを明らかにしていない。想像ができることではあろうが……。
(ザポリージャ原発)
地雷原を除雪したかのように地雷が混じった土を左右にかき分け進んで来た。数発の地雷が爆発したが、中隊の車列は無傷だった。予定通り、中隊長率いる20台の歩兵装甲車両が「ザポリージャの森」に着いて、森の中に姿を隠した。この地点からロシア軍親衛隊が占拠している「ザポリージャ原発」までは、ドニプロ川に沿って陸路で西に60km行くところにある。前回も言ったが、原発を悪用したロシア軍守備隊への攻撃は格別に困難なものだった。原発を盾にするプーチンの非道さは、悪魔の所業と言いたいのだ、俺も。これもプーチンが直々に指示した作戦だったからだ。
一週間前、俺は休暇中、ウクライナの夜空を眺めていた。満天の星が宙(そら)を埋め尽くしていた。眠気がきて瞼が閉じられそうになったその時、モスクワ方向の北北東の宙から明るい光が斜めに走り、ザポリージャ原発の上空で消えたのを見た。そうかーー! それしかない! 俺の脳裏が閃いた!
兵舎に戻った俺は、中隊長宛に『ザポリージャ原発特別軍事作戦(案)』を上申した。俺の頭が冴え、小一時間でキーボードを叩き終えた。そして俺は愛用のモンブランでサインした。これがBプランだった。
「分隊長。君のBプランを実行するぜ。忠実にな。総司令部は我々の計画遂行に期待し、援護態勢をとっている」中隊長は切り出した。
「中隊長。出発は?」俺は訊いた。中隊長が南の夜空を見た。ウクライナ軍のミサイルと砲撃が止むことなく3、40km先に撃ち込まれている。それらはザポリージャ原発のロシア兵を支える補給基地の方向だった。
「出発は0300時だ。それまでに準備を完了したい」そう中隊長が応えた。
「サー 中隊長」俺は英国人義勇軍中佐に「サー」をつけて応えた。英国王から与えられる称号を、俺は彼に与えたのだ。信頼でき、馬が合う中隊長だ。半分はジョークだが……。
「分隊長。私にサーとは……英国ではサーをつけてほしいが、ウクライナでは要らないよ」英国特殊部隊出身の中隊長が口ひげを撫でて言った。中隊長の言い回しで、俺ははたと気づいた。
「中隊長は、サーの称号をお持ちなんだ」
「分隊長。神のもとに人間は平等だけどね。人間のもとでは人間は不平等だな。生まれた時からサーが付ている家だったからね。さあ、準備を完了しようぜ」中隊長の信条が滲み出ていた。
鹵獲したロシア製T72戦車を改造した兵員輸送装甲車20台に、【Z】の文字を左右前後に書き、ロシア国旗を掲げた。20台に分乗した俺たちは全員、ロシア兵である証の【ワッペン】を腕に張り付けた。片腕片足に、ロシア兵の証である白いテープを巻いた。
3台の装甲車には、ロシア語がネイティブで話せるロシア兵に化けたウクライナ兵が乗っている。
俺は20台に乗っているウクライナ義勇軍兵士全員に、インカムで伝えた。
「中隊長からの命令だ。先ず全員、スナイパー銃に消音装置を装着せよ。我々の目標は、ザポリージャ原発の解放である。作戦の要領は中隊長が伝える」
先頭車両に乗っている中隊長がインカムで継いだ。
「我々はこれから『特別軍事作戦』を行う。ザポリージャ原発敷地内に堂々と入り、ロシア兵を殲滅する『偽旗作戦』を実行する。準備は良いか?」
「OK!」20台から応えがインカムに聞こえた。
「GO!」中隊長が命じた。
ザポリージャ原発特別作戦中隊160名を乗せた20台は、「ザポリージャの森」を出て南下して行った。俺はほんの少し目を瞑り脳を休めていた。それは僅か数分だったが、これまでの戦場を思い出していた。眼に浮かぶ戦闘は、モノトーンの無機質なシーンだった。生死をかけた戦場での戦闘シーンって、そうに違いない。色彩は愛でる余裕がある時に脳が感じるのかもしれない。
(つづく)