北朝鮮の自動車
1.北朝鮮の自動車産業の概要北朝鮮の自動車産業は、1958年11月にドクチョン自動車工場(現勝利自動車工場)で旧ソ連制の「GAZ 51号」の技術を導入した2.5t級貸物自動車「スンニ58号」を試作品として生産したことを皮切りに始まったと言える。北朝鮮は「社会主義工業国家として、自動車だけは他国から買わないで、自国で生産して使う」という方針を立てて、量産体制の構築及び部品の国産化などの過程を通じて、自動車産業の発展を追及した。 1950~60年代の旧ソ連及び東欧圏製品のライセンス生産時代を経て、1970年代に入って自動車設備の系列化と拡張、部品の国産化などに重点を置いた。1980年代以降は既存の生産品である2.5t級「スンニ58号」、10t級「チャジュホ」、25t級「コンソルホ」など貸物自動車の量産体制を整える一方で、一部の自動車生産ラインを外国から導入して、初歩的に自家用乗用車もKD(Knock Down、半製品-組み立て)方式で生産して来たと知られている。 貨物車の種類としては、「スンニ58年」-カ、ナ、タ型があり、新型「ペクテゥサン」、「クムスサン」、「マンスデ」、「テベクサン」などがある。これ以外にも、農業の機械化に必要なトラクターを生産しているが、主に集団農場で使える大型トラクターが生産されてきた。一例として、「プルグンビョル」、「クムソン」などを挙げる事ができる。2. 主要な自動車生産工場及び現況北朝鮮の主要自動車工場の中で最大規模を誇るのは、平安南道ドクチョン郡に位置する勝利自動車工場である。ここでは主に「スンニホ」、「ケンセンホ」(ロシアLada NIVAモデルJeep車)、「チャジュホ」(中国チャンチュン第一自動車モデル)、「クムスホ」(ロシア製鉱山用ダンプトラック)、「チュンソンホ」(マイクロバス)、「チョンリマホ」(バス)、「コンソルホ」などをはじめとする貨物車、乗用車、衛生車、ダンプなどを生産する。これ以外にも、ピョンセンケンセン自動車工場では乗用車とジープを生産しており、6・4車両総合工場、3月30日工場、ピョンヤン無軌道電車工場が主要工場に属する。南浦(ナムポ)に位置する平和(ピョンファ)自動車工場(社長パク・サンゴン)では、「フィパラム」、「ポックギ1、2、3」などの車を生産している。2002年2月にはイタリアのフィアット(FIAT)社のSIENAモデルを部品形態(CKD:Complete Knock Down)として輸入して、「フィパラム1」を出品した。続けて、「ポックギ1」を同じフィアット社のDOBLOモデルを導入して生産した。しかし販売価格が高く、日本製の中古車より車体が小さく、人気を得ることができなかった。以降、2003年からは中国の丹東に位置するソグァン自動車からモデルを導入して、組み立て生産したスポーツユーティリティー(SUV)車「ポックギ2」を生産し始めた。「ポックギ1」は1,600cc級の小型RVだが、「ポックギ2」は2,400cc級のガソリンSUV車に属する。「ポックギ3」は同じ中国丹東にあるスグァン自動車の新型SUVモデルを導入したピックアップ(Pick Up型)の「ポックギ3」がある。車長は5mに達し、5人乗りダブルキャブ(Double Cab)形式の大型ピックアップ車である。また2006年度に登場した「サムチョンリ」は、瀋陽にある金杯自動車が生産する旧型TOYOTAを技術基盤にしたHIACE(中国名: ヘサ)モデルで、11人乗りと7人乗りのVANがある。このような多様なモデルを生産する平和自動車では、韓国とイタリアのフィアット社の核心技術陣20人、そして北朝鮮労働者320人など総勢約340人が最近勤めているとされる。しかし、最近フィアット社は既存の生産ラインを殆ど活用することができず、中国で完成車を購買して、簡単に解体してから、再び北朝鮮にコンテナで運送する方式を取っている。 その上、工場内で最小限の作業水準に再組み立てするSKD(Semi Knock Down)方式で生産する状況なので、フィアット社側の人材はおらず、テクニカル・サポート契約も中国産導入を契機に終わった。そして現在は、自社の人材だけで小規模に運営しているように見られる。特に、2007年平壌国際商品展覧会に出品した「フィパラム2」モデルは中国瀋陽の華晨自動車と合作で組み立て生産する駿捷モデルである。追加生産を計画中の車種としては、中国ハルビン所在の哈飛自動車の「賽豹III」モデルなどが知られている。このように、これまで平和自動車総会社は設立以降2006年までに、約1,000台の乗用車及び商用車を生産して北朝鮮に販売してきた。一方、平和自動車は中国産ライセンス(License)生産技術導入先の変更及び拡大、そして代金決済方式に関して、いわゆる中国の「走出去」(中国企業の国家的な海外進出戦略名称)戦略による中国政府の影響力拡大の可能性が目立っている。すなわち、後払いで部品を供給して、北朝鮮現地で組み立て生産して、販売後に部品供給代金を受け取る方式である。このようにして、中国の自動車企業が北朝鮮の自動車市場を先行獲得するために、攻撃的に市場を開拓し、これを直・間接的に中国政府が支援しているというのが、現在、有力な情況である。現在、北朝鮮は年間20,000~30,000台レベルの自動車生産能力を保有しており、6,000~7,000台水準で生産しているとされている。しかし最近の調査の結果、日本産の中古車と中国産の自動車を除けば、事実上、自動車産業が1990年代末から殆ど崩壊状態であると推定される。これは北朝鮮の自動車工場の生産設備が老朽化しただけでなく、電力難などで工場が正常に稼動できなくて、部品の輸入や調達がスムーズに進まないからである。 北朝鮮の自動車産業は、内部的には生産能力を拡大し続けて来たのかもしれないが、実際は生産ラインが正常に稼動してこなかったように見られる。例えば炭鉱及び鉱山で必要とするクムスサン自動車の生産ラインは、車が40tと大型である上に、技術導入ラインであるロシア側の部品供給の中断と車の運営に必要な燃料供給の問題及び山岳と急傾斜地域での安全運行の問題も大きいとされている。「スンリ58号」の場合は、一部、ガソリンや軽油を燃料と使わないで、褐炭から抽出した代替燃料を使ったり、はなはだしくは木炭を燃料にする車もある。したがって速度が遅く、傾斜が険しい所ではプリントアウトが弱いので、正常走行が難しく、燃料当たりの走行距離が非常に短い。北朝鮮は貨物車を中心に、中国から年間約3,000台を輸入している。過去、北朝鮮は毎年日本から中古車4,500台以上を輸入してきたが、日本の核実験規制措置以降、日本産の中古自動車の輸入が全面的に中断されたのが実情である。一方、ドイツのフォルクスワーゲン社は乗用車パサト(Passat)などを2004年から2006年にわたって500台以上販売したとされているが、UN制裁以降は供給が中断されている。