1 精神分析法について
人間の精神は、複雑きわまるものであり、その日常意識しているものだけが精神でなく、意識をせず行動することもあります。たとえば、夢のような日常の意識を離れた精神現象もあるわけであります。ゆえに現在日常現れている精神現象だけを直接観察しても、それは単なるうわべの観察であって、精神の深層、すなわち心の奥底に関係あることがらについては、精神分析法によって観察しなければ解明することはできないのであります。
2 精神分析法の起源
精神分析法は催眠術から発案されたものでありまして、その方法を初めて案出したのは、オーストリアのウィンに住むヨゼフ・ブロイエル氏という医者であります。
ブロイエル氏は1880年から82年にわたって、ヒステリー患者の若い婦人を治療していたのですが、これは催眠術によってそのヒステリーの原因を突き止めることができ、催眠術を解いたとき、ヒステリーは即座に全治したのです。
この方法にヒントを得たブロイエル氏は、それ以後は精神的の病症には催眠術を応用して病気の原因を発見し、その治療の効果が顕著であることを確認し、この方法を「精神清浄法」と名づけたのでした。これが現在言うところの「精神分析法」の起源であります。
次に、ブロイエル氏に遅れること約十年で、オーストリアのシーグムンド・フロイト氏という精神医学者が、前述のブロイエル氏が行っている「精神浄化法」を見て大いに感興を持ち、その研究を続けていましたが、フロイト氏は、このブロイエル氏の精神浄化法を「精神分析法」という名称に改め、ブロイエル氏が催眠術を応用するのに対しフロイト氏は催眠術を応用せず、心理学の一部として連想法を用いる方法を提唱しました。これは頭の中に浮かんでくる考えを次々と連想していって、心の中の感情的なシコリを見出そうとする方法でした。、
このようにして、フロイト氏は神経症の多数の患者について研究をすすめ、これらのデータを集めて理論的に体系を作り上げました。すなわち、
1、神経症状は偶然的のものでなく、過去の事件によって決定されているいう心的決定論。
2、症状の原因は無意識で、患者自身には知られていないという原因無意識論。
3、原因が無意識にとどまっている理由は、それが不愉快な体験であるとか、他の傾向と衝突するために、意識の内部に浮かび上がらぬよう心の深層に押し込められているという感情抑圧論。
4、無意識の中にあって発散されずにいる感情は、あるきっかけができたとき、言葉や行為となって発散、それによって心の中がきれいになるという解除反応による洗浄論。
とこのように主張し、フロイト氏の精神分析法が認められ今日に至ったのであります。しかし、この考えのすべてがフロイト氏の独創でなく、それまでに他派の学者も同様なことを考え、かつ、主張していたところであります。
以上述べましたように名称は異なっていますが、精神分析法を創案したのはブロイエル氏であり、これを理論的に体系を作り上げたのがフロイト氏であるといえましょう。
3 精神分析法の方法
ブロイエル氏とフロイト氏との分析の方法を比較しますと、次のようであると私は思います。
ブロイエル氏の方法は催眠術を応用するのであって、患者に対し過去に起こったことを思い出させるような誘導するような言葉やヒントを与えることは許されない。全く患者自身で自由に考えさせます。その方法は簡単であり、短時間(早ければ1、2分間。長くて3、4分間)で、患者の心の奥底にこびりついている感情のシコリを、過去に起こった当時そのままの情景が、本人の頭に再現しますから、病症の原因を発見することが確実であり、治療の効果も確実であります。
フロイト氏の方法はこれを心理学の一部とし、したがって催眠術を応用せず、患者に対して各種の質問を行い、連想法によって心の奥底にこびりついている感情のシコリを発見しようとするのであり、それはとても簡単にはできず、早くて半年、中には三年以上の歳月を費やし、しかも、これは病気の原因が本人自身の頭に浮かぶのでなく、他人がその原因を判断しようとするのであります。
4 精神分析法による治療
精神分析法による治療を述べようとするに先立ち、ブロイエル氏の学説の一端を次に述べてみましょう。
ヒステリーなどの神経症に類する病気の大部分は、過去において受けた精神的外攻に起因するものであって、その際に起こったところの感情が抑圧されたままとなっている場合、その事実はいつの間にか忘れてしまっても、その抑圧された感情のシコリは、いつまでも脳髄の中(海馬)に記録され残存しているのであって、これが後日になってヒステリーまたは神経衰弱に類する病気となってあらわれるものである。これらの病気は何一つとして偶然に発病するものではない、と説いています。
私も実際に行っていますが、催眠を使えば、本人から直接病気の原因を話してもらうことができます。
これは間違いの無いことです。
だから、すぐに改善することが出来るのです。