1 自己催眠の方式
自己催眠法とは、自分で自分に催眠術をかける方法のことです。一般の催眠術(これを他者催眠術という人もあります)は、術者が被術者にかける方法ですが、自己催眠法は、術者も被術者も同一人であり、これが一般の催眠術とは違う点であります。
自己催眠の方式にも、一般の催眠術同様いろいろのやり方がありまして、いずれも古くから伝えられているものであって、一般の催眠術家の各著書にも、おのおのむずかしい理論が述べてあって、それを教授される場合は、たいてい90日の長い日数を費やして練習するようになっております。
私は自己催眠法も、他に類のない方法を二種類独創しまして、これを実行しております。そのやり方は簡単で練習する必要もなく、しかもその効果が確実で、これにまさる自己催眠法は、他に類がないと自負しております。
なお、私が考案した自己催眠法と、他の多くの催眠術家が教えておられる自己催眠法とを比較し、その異なっている最も大切な点は次のとおりであります。
この本の第二章に、
「催眠術とは、言葉の暗示を相手の脳に感銘させる方法である」
と述べておきましたが、自己催眠法の場合も同様であって、暗示を、自分に声を出して自分の耳に聞かせると、その暗示は耳から大脳中枢に達し、脳は与えられた暗示、たとえば「なおる」という暗示に感銘して、暗示のとおり作用しますから、自己暗示の目的を達成することができるのです。しかし、他の催眠術家の説くところは、暗示を脳に感銘させるのでなく、心の中で思うだけであり、その効果の程もうかがわれます。
2 長尾式催眠法
私は、一般催眠術の場合も前に述べましたとおり独特の「長尾式瞬間催眠法」を考案して長年の間実施してきましたが、自己催眠法も一般催眠術家の説く昔から伝わっている方法とは、全く違っている方法を考案しまして、これに「長尾式自己催眠法」と名づけて実施してきました。
これは、フランスのエミール・クエ氏の考案になる「自己暗示法」にヒントを得て、その暗示を教えるために紐を使ったり、幾日もかかる無駄なところを全部省いて最小限に縮め、ただ「なおる」と、ひとこと言うだけの簡単なものにしたのです。
たとえば、自分が病気の場合(その病気は催眠術治療の対象となる病気、すなわち、医者でも薬でもなおらない、黴菌の作用によらない病気の場合)は、まず目を閉じてその患部に全神経を集めて、「なおる」とただひとこと、声を出して自分の耳に言い聞かせると、その声が耳から大脳に達し、脳は与えられた暗示のとおり作用して、(はたらいて)、その病気または悪癖はたちどころになおります。この「なおる」という暗示は、いささかの疑いの念があってはならない、断じてなおるという固い信念を持って、腹のどん底から出てくる真実の声で「なおる」と言って脳に命ずるのです。もちろん大声を出す必要はなく、普通の話し言葉より小さく、自分の耳に聞こえる程度の声でよいのです。
自己催眠法を行う場所は、屋内でも、寝床の中でも、屋外でもよく、道路歩いている時ならば、「なおる」という暗示を言うとき、ただ一、二秒間歩行をとめればそれでよいのです。
3 私が自分の病気をなおした実例
私が「長尾式自己催眠法」によって、これまで自分の病気を自分でなおしたもののうち、その若干の例を次にあげてご参考に供しましょう。
1 坐骨神経痛
坐骨神経痛とは、腰の後側から大腿部の後側に沿って下へ、足首のアキレス腱のところまで伸びている太い末梢神経が、寝たり立ったり歩いたりするための動作の転換に際し、驚くほど急に激痛(多数の針で刺されるような痛み)を感じる症状で、これは簡単にはなおらない病気です。
私はある朝、学校へ出勤するため家を出かけようとして玄関を出て、道路へ出た時発作が起きて、一歩も歩けなくなったのです。私は、
「痛くない、なおる」
と、声を出して私の耳に聞かせると同時に、腰の尾てい骨の辺りをこぶしで一つ強くたたきました。すると坐骨神経痛はその瞬間になおって、後は何事もなかったように歩けました。一歩も歩けなくなった激痛が、このように瞬間にあっけなくなおることはまことに愉快で、自己催眠法をやれば、坐骨神経痛だけでなく、肋間神経痛も三叉神経痛も、いささかも恐れることはありません。
2 瘤
私の頭の頂点よりも少し右のところに、いつごろできたのか不明でしたが、大豆ほどの大きさの瘤ができているのに気がつきました。それを発見してから二、三ヶ月間ほど放って起きましたところ、だんだん大きくなりそうでしたから、校医先生に見てもらいましたところ、
「なんだかわからないが、癌でもなさそうだ」
という話でした。
そこで私は、何かわからないような出来物ならば、自己催眠法でなおそうと思い、そのこぶのところへ注意を集中しておいて、
「こぶはなおる、なおる」
と暗示を与え、大して気にもかけずそのことを忘れていて、半月ほどたってからこぶのことを思い出し、手で探ってみたところ、あとかたもなく完全に消えてしまっていました。
私はこのほかに、幾つかの病気を自己催眠法でなおしました。病気だけでなく自己催眠法をいろいろのことに利用してきましたが、私が行うこの自己催眠法は、そのやり方が簡単で効果が確実であると信じますから、催眠術治療の対象となる病癖に利用せられるようおすすめします。