長尾先生は、てんかんのことを非常によく研究されているようです。
以下は長尾先生の本から
てんかん(癲癇)
1てんかんの種類
一般にてんかんというのは、発作的に突然起きる意識障害をけいれん(痙攣)とで、その場に倒れる病気を言いますが、このほかにも多数のてんかんがあって、その中には倒れるものもあり、倒れないものもあり、患者自身もそれを意識しないものもあります。一般に非行少年といわれるものの中でも、その30%はてんかんであるとされております。
ここでは、まず最初に一般にいうところのてんかんについて述べ、続いてその他のてんかんについて述べましょう。l
一般にいうてんかん
原因
てんかん患者の大多数は、明らかな外因がなく遺伝によるもので、これを「真正てんかん」といいます。そのほかは、脳に外傷を受けたり、諸種の疾患や中毒等に起因するもので、これを「症候性てんかん」といいます。
1、真正てんかん(遺伝によるてんかん)
真正てんかんは、催眠術治療によって、一回の施術で完全になおって、決して再発しません。遺伝であるかどうかは、脳に明らかな外因がないことと、患者の血縁を顧みればわかります。たとえば父母、祖父母、曾祖父母、それに連なる傍系の血縁に当たるものにてんかん患者があるならば、まず遺伝性のてんかん(真正てんかん)と見てよいでしょう。
てんかんは中年以後に発病することはまれで、患者の50%は十歳までに発病し、その他は思春期から二十歳前後までに発病するのが普通で、25歳以上になってから発病するものは10%ぐらいとされております。
症状
症状は、真正てんかんも、症候性てんかんも同じでありますが、患者によってその状態はさまざまです。普通には、発作的に当然意識を失ってけいれんを起こすものが多く、妙な叫び声を上げてその場に倒れ、全身の筋肉が硬直し、手や足をガタガタふるわせるようなひきつけが続き、まもなくこれは止まるが、後は大きな息を噴き出します。普通には数分間でけいれんが終わり、徐々に意識を回復しますが、中には発作後そのまま睡眠に移行し、何時間も目が覚めないのもあります。発作中は瞳孔が散大し、強直し、倒れるときに外傷を受けたり、舌をかむことがありますから注意を要します。大小便を漏らすこともあります。
発作の起きる時刻が多くは習慣性となるもので、あるいは朝起きたとき、または夜床についた時に、あるいは道路上で、乗り物の中で、学校で授業時間中に、人が大勢集まっている所で、あるいは火事を見たとき、あるいは洪水を見ていたときなど、最初に発作を起こしたときが習慣となるものです。
以上のように発作は、一年に1、2回ぐらい起きるだけの軽いものから、一日に数回起きる重症のものもあり、こうした症状を大発作と称し、これよりも軽くけいれんだけで終わるものを小発作といいます。
てんかんというのは、発作を起こして倒れてから泡を吹くのを指し、それ以外のものはてんかんでないと思う人もありますが、泡を吹くのは一つの現象であって、それがてんかんの全体ではありません。
真正てんかんでも、症候性てんかんでも、てんかんはけいれんまたは失神発作を起こしたり、または失神発作の代わりに別の精神症状の発作が起きるものを精神代理症と称して、倒れるてんかんと区別されており、これもてんかんで、その種類は多いのですが、そのうち主なものを列記して、簡単に説明しましょう。
催眠術による治療は、真正てんかん(遺伝性のてんかん)については、後に掲げる「てんかん治療の実例」に準じて施術すれば一回で完全になおります。症候性てんかんは、その原因を医術によって取り除けばなおることになっております。
2、てんかん性精神病
これは、感情の刺激によって突然人格が変わってしまい、あるいは憤怒激発し乱暴を働いたり、あるいは窃盗を働いたりして、世人の誤解を受けることになりますが、これはてんかんの発作によるものですから、催眠術で一回の施術で完全になおります。
しかし、てんかんの発作でなくとも、短気でけんかをしたり乱暴を働いて人を傷つけたり、あるいは盗みをする者もあります、また精神機能の遅鈍な者もありますから、これがてんかんであるかどうかの区別は明らかでなく、脳波の検診によって判定するより方法がありません。
3、脳疾患てんかん
これは脳腫瘍、脳軟化症、脳梅毒、進行性麻痺、結節性脳硬化症、頭部外傷、幼児期の脳膜炎などのために発作がおきるてんかんです。催眠術ではなおりません。
4、アルコールてんかん
これは、発作がおきるの患者自身はてんかん発作とは意識せず、ヒステリー症状のようになって突然家を飛び出し、むやみに酒を、とくに強烈の洋酒を好んで飲み、はなはだしく興奮し、たちまち人格が変わってしまい、誇大な観念を抱いたり、幻覚、幻聴を起こしたり、あるいは前後を忘れて乱暴を働いたり、あるいは殺人放火もあえて行なうという凶暴性をあらわすなど、その暴状は手のつけようもなく、ヒステリー患者に比してはなはだしく乱暴であり、残虐性をおびております。しかも患者自身はその行為について全く記憶にとどめていないのが普通であり、これが特徴でもあります。発作が生きていないときはまことに小心で、まじめで、善良な人格者もあり、同情すべき病気であるといえましょう。
5、ピクノプレシー
これは、小児時に多く起きるけいれん性疾患で、日に数十回、またはそれ以上も引き付けが頻発しますが、その発作時にはわずかですが顔が蒼白となり、目の玉が上のほうに向き、意識を失ってしまいます。このように激しい発作を起こしても、真正てんかんにまで発展することはまれで、成長するに従って自然に消滅します。
6、鉛毒てんかん
これは活字工、印刷工、ペンキ工その他含鉛おしろいを使用する人の起きる鉛毒中毒によるてんかんです。これは職業を変えたり、なたはおしろいを使うことをやめることが必要です。
7、中毒性てんかん
これはアルコール中毒によるものが最も多く、次にコカイン、エーテル、カフェイン、カンフル、サントニン、モルヒネ、催眠剤などを習慣的に続けて服用したりすると、その中毒によっててんかんの発作が起きます。その薬品の使用を禁止し、または禁酒しなければなおりません。
8、ミオクローヌスてんかん
これは、節間代けいれんともいいます。家族性に発生し、幼年期に普通のてんかんとともに起きることが多く、進行性痴呆症になるのが特徴です。催眠療法ではなおりません。
9、もうろう(朦朧)てんかん
意識の混濁は認められないが、数時間または数日間にわたることがあり、一見したところでは正常に近い行動を示しているのですが、何の関係もなく、何の目的もなく突然行動を起こすことが多く、このほかに幻聴・幻覚・妄想を伴い、暴力的行動をする危険があります。この状態からさめると、本人は全く何も記憶していないのです。前述のアルコールてんかんに似ております。その原因が薬品の中毒ならば、服用を頑固としてやめると回復します。
10、尿毒症てんかん
急性尿毒症の時、頭痛、倦怠を伴い、うわごと(譫妄)状態となって、しばしばてんかん発作を起こします。医術によって尿毒症を治療すればなおりません。
11、皮質性てんかん
大脳皮質、特に運動領域の病巣(外傷、炎症などのよる腫瘍、脳梅毒)によって起きるてんかんです。ジャクソンてんかんともいいます。これは医術によって原因である病気をなおせば、てんかんもなおります。催眠術治療ではなおりません。
12、残遺てんかん
これは胎児疾患、分娩時障害、幼児の頭部障害、脳炎、髄膜炎などの結果としてくるてんかんで、脳性小児マヒと共にくることが多く、脳の粗大な器質障害を示しております。手の指、足の指に出現する一種独特の異常運動(捻転、屈曲、伸展など)を見るものです。
13、妊娠性精神病
てんかんが妊娠によって悪化したり、あるいはその反対によくなったりすることがあります。
14、気象病てんかん
気象変化の中で、気象前線、フェーン現象、気温の逆転、特に寒冷前線との関係があると考えられている一群の病気の中でてんかん発作を起こすものがあり、これを気象てんかんといいます。
15、子癇尿毒症てんかん
これは、多くは高度な腎機能不全を伴わない腎臓病患者にあらわれるてんかんで、(強直間代性けいれん)、発作に先立ち頭痛、嘔吐、徐脈、血圧高進があって、一日に一回または数回、ときには一日中連続発作のこともあります。医術で治療を要します。
16、その他省略します。