てんかん治療の実例
ハワイ 日系二世 鈴木よし子さん 主婦 66歳
この婦人は夫君に伴われて、突然私の勤務先の大学へ訪ねてこられました。その病歴は、1951年にはじめててんかんの発作が起こって驚いてしまった。以来今日まで毎週一回または二回発作が起きるため、いつも不安にかられているという症状で、ハワイの病院はもちろん、米大陸の各地の有名な病院で治療を受けたがなおらず、米国にも多数の催眠術家がいるから、その権威者をたずねて治療を受けたが、何の効果もなく、なかばあきらめていたが、私(長尾)の事をハワイの日本領事館で聞いたから、治療を受けにきたということでした。
私は治療を快諾しました。あの日は空いている教室が見あららなかったため、図書館の事務室の、勤務時間中だったので、数名の職員が見ているところの、あいている机を借り、患者夫妻の承諾を得て、そこで治療することにしました。他人の見ているところで治療することは、断じて避けるべきであるが、この日は適当な室がないため、やむを得なかったのであります。そこで、さっそく催眠術をかけ、催眠状態に引き入れてから、
「あなたのてんかんは、これで完全になおって、将来再発するようなことは断じてありません。安心してください」
と、暗示を与えて催眠術を解きました。
患者夫妻は、
「羽田空港を出発するまでには、まだ日数がありますから、それまでにもう一度催眠術をかけてほしい」
と、一回の施術では不安らしく、このような以来だったから私は、
「催眠術はいまごらんになったように薬でなく、ただ言葉の暗示を患者の脳に感銘させ、脳波暗示のとおり作用して病気がなおるのですから、一回の施術で大丈夫です。二回施術する必要はございません。これは私の長い間の経験による信念ですから・・・・」
と断ったところ、夫妻は一回の施術では不安らしく、
「私どもは、共に七十に近い老人ですから、今後再び日本へ来るようなことはないでしょうと思います。ぜひもう一度施術をお願いしたいのですが・・・」
と、くどく懇請されましたが、しかし、出発せられるまでに、もう一度施術することは、いま施術したことが全く無駄となるわけですから私は、
「同じ病気に対し、二度も同じ暗示を与える必要はありません。私は施術するのを惜しむわけでなく、一回でなおるという確信をもって施術したのですから、二回施術する必要は断じてありません。あなたも、私が申しますとおり、一回の施術でなおったのだと思って安心してお帰りください」
と諭しました。しかしこの夫妻は不本意らしい表情で、すごすご辞去されました。
その年の12月7日、私は思いがけなく彼女の夫君からの手紙を受け取りました。その手紙によると、
「私の妻は昨年の10月、東京学芸大学の事務室で、催眠術の治療を受けました。その節はお世話でございました。長い間苦しんだ病気がおかげさまで完全になおって、今日まで一度の発作も起こらず、催眠術の効果の確実なことを知って、感謝にたえません」
と、このような要旨の礼状だったのです。その後現在まで、毎年のクリスマスカード、年賀状、そのときどきの彼地のニュースなどを知らせる手紙などを私は受け取っています。また過日は私に対し、ひまがあるならばぜひハワイに来て、それから米大陸に渡って、多くの悩んでいる同病患者に施術し、彼等を救ってほしい、当方でもできる限りの努力をしたい、という厚意ある嬉しいたよりも受けました。
このような長尾盛之助先生のことが、検索してもほとんどヒットしないのはなぜ?