静岡県 野田道子さん 主婦 58歳
この婦人は、病院の診断で胃がんであることがわかったのですが、本人には相当悪化した胃潰瘍だといっただけで、付添い人の娘だけには秘密に胃癌であることを知らせ、早期手術をしなければならないと言い渡されていたのです。
私が本人に会ったところ、患部に痛みを感じることと、年齢に比して疲労がひどいことを訴え、顔色が悪く、皮膚にもつやがないことから、胃癌であることを直感しました。
本人には、医師から言われたとおり胃潰瘍として治療することにして説得しました。
「不愉快な思いをしたり、腹を立てたりすると、たちまち胃が収縮して食欲がなくなります。いはこのように神経が敏感に影響します」
「あなたは、なぜ胃潰瘍になったかといいますと、それは自律神経が乱れたのです。あなたの気持ちのもつれ、あるいは対人関係のもつれによって自律神経が乱れたため、胃潰瘍になったのです。それをなおすには、自律神経を正常に戻すのが大事な条件です」
「あなたは、気持ちのもつれなどはない、自分の気持ちは常に穏やかだと思われるかもしれませんが、まず私の申し上げることをお聞き下さい」
「あなたの自律神経が乱れたのは、対人関係だと私は思います。たとえば親子関係、夫婦関係、あるいは親類関係、職場関係、または居住の環境関係などで、気の合わない人もあるでしょうし、または癪に触る人もありましょうが、もしそのような人があっても、あなたは決して腹を立ててはいけません。腹が立ってもその怒りの感情を押えてはいけません。相手は教養の無い人だ、気の毒な人だから許してあげよう、と思うのです。草すれば気持ちが明るくなります」
「また、人は誰でも不平不満はあるものですが、できるだけ不平不満に思わず、何事に対しても感謝の気持ちを持ち、日本晴れのような明るいうれしい気分になりましょう。草すればあなたの自律神経は正常に働きます」
「あなたの胃潰瘍は、ただ今限りなおりますから、食欲も進み、からだも肥えてきます。顔色も良くなります。これで胃潰瘍はなおります」
と、以上のように説明してから催眠術をかけ、催眠状態になってから、この説得の言葉を暗示として治療を行い、
「これで胃潰瘍はなおったと確信を持ってください」
といって治療を終わりました。この婦人はその後、7、8年経過してから、催眠術の講習会に出席し、その講習開始に当たり、自己紹介のとき
「私は胃癌だったのを催眠術でなおしていただきましたので、私も講習を受けて、私と同じように癌で悩んでいる方をなおしてあげたいと思い、今回の講習会に参加したようなわけでございます」
と、私はこの婦人の自己紹介を聞いて、そのようなことがあったのをはじめて思い出しました。