神経痛には、「三叉神経痛」「肋間神経痛」「座骨神経痛」の三つがあります。 三叉神経痛は、脳から出た神経が三枝に分かれ、その第一枝は顔の目から上に分布し、第二枝は頬に分布し、第三枝は下顎に分布している神経の総称です。この神経痛は、三つの部分のうちいずれかが冒されるのであって、そこに物が触ると、たとえば、ハンカチのように軽い物でも驚くほど痛く感じるものです。 肋間神経痛は、胸部の脊髄から出て肋間にそって走る神経が、ずきずきと痛むのをいいます。胸神経の背部に神経痛が起こることはまれで、たいていは前の方の神経が痛み、第5から第9肋間神経がこの病気にかかるものです。痛みが激しいために、深い呼吸も、咳も話も出来ないほどになることがあります。痛む所の皮膚に、じんましんのような小さいブツブツがいっぱい出るのが特徴です。 座骨神経痛は、脊髄の下から出て、骨盤を経て浅く、長く、太くなって下肢に分布する神経が、外傷とか圧迫、あるいは寒さなどに侵されたりして、しばしば起こります。 以上の三つの神経痛のうち、肋間神経痛の治療例について述べてみましょう。 患者は、神奈川県にある有名な病院に入院中の二人の婦人で、いずれも入院後5ヶ月を経過し、手厚い治療を受けていました。そのうちの一人は57歳ぐらい、他のもう一人は52、3歳ぐらいでした。病院長の依頼で、この二人を院長の応接室で施術することにしました。院長以下医員数人、看護婦、薬剤師、その他従業員も、催眠術治療は初めてなので、その方法を見学することになりました。 二人の患者は、ソファにならんで腰掛けてもらいました。容態を聞くと、二人とも肋間神経痛(あるいは俗にいう五十肩)らしく、発病以来痛みが激しくて、両手ともその指先がようやく肩の高さまではあがるが、それ以上はあがらない状態でした。白髪まじりの頭髪は、苦痛の連続で乱れてしまっていました。「腕をちょっと動かすと、肩の辺から両腕にかけ、刃物にさされるように痛みます」「手が頭まで届かないほど悲しいことはございません。くしで髪を撫で付けることが出来ず、こんなにボウボウの髪になってしまって、まるで気違いのようでございます」「手が後ろの回らないから、帯を結ぶことも出来ず、帯や髪は、いつも看護婦さんのお世話になっていますが、せめて片方の手だけでも動くようにして頂きたいのですが・・・・」 と、ふたりはその苦痛と不自由さをこもごも訴えるのでした。「よくわかりました。苦しいことでしょう。お察しいたします。今から、おふたり一緒に、瞬間に、一秒間の何分の一の早さで催眠術をかけて、即座になおしてあげます」 院長先生はじめ全員、好奇心を持って見つめておられました。私はさらに言葉をつづけ、「おふたりとも、私の方を見てください。私が催眠術をかけますから、このように、私が見本を示すように、あなた方の右の手をのばして高くあげ、その手を頭の上を越させて、左の耳をつかんでください。少しも痛くありませんから、それから次に左の手をのばして高くあげ、その手を頭の上を越させて、右の耳をつかんでくださいよ」「では、おふたり一緒に催眠術をかけますよ。私が、はいッ・・・・・と、小さい声で合図をしますと、その合図で瞬間に催眠術がかかります。おふたりとも、目を閉じてください。さあ、合図をします。はいッ・・・・・」「これで催眠術がかかりました。今言ったように右の手をのばして高くあげ、頭の上を左の方へ越させて、左の耳をつかんでください」 というと、ふたりは同じように右手で左の耳をつかまえたのです。「痛くも何ともないでしょう。私が合図をしたその瞬間に神経痛がなおったのです」「今度は左の手を高く挙げて頭を越させ、右の耳を上からつかまえてください」「そうです。そうです。痛くもなんともないでしょう。これで神経痛はなおりました」「おふたりとも、両手を元のように下げて、こんどは目をあいて、ソファから立ち上がってください。ラジオ体操のように、私がするようにまねをして、両手を上げて、下げて、両手を左右に曲げて伸ばして、こんどは両手を前に後ろに、右に左に強く振ってください。痛くもなんともないでしょう」「こんどは両手を腰に当ててください。そして上体を前へ曲げてください。次は後ろへ反ってください」「これで、すっかりなおりましたから、催眠術を解きますよ。私がひとつ、ふたつ、みっつと数えると解けます。そうすると頭が軽く、からだがさわやかに愉快な気分になります。では、数えますよ。ひとつ、ふたつ、みっつ・・・・・はい、これでよろしい」 ふたりは、うれしそうな表情で、そして不思議そうに質問しました。「これは、幾日ぐらいなおったのでしょうか」「催眠術は薬ではないから、これで何十年でも・・・・一生再発しませんから安心してください」 この治療を終わってから、院長先生の要請で、医員、看護婦などを被験者として、ひとりひとり、または数人一緒に催眠術をかけ、催眠状態を現す実験をして、病院を辞したのです。長尾盛之助先生の著書から
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Last updated
2010.02.24 08:41:51
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