Exciteブログで書いてきた
『トラバでボケましょう』 関連の創作を元に、それらをショートショートや短編にしてみます。 面白いかどうかは、掲示板へ。
カテゴリ:ショートショート
小学校5年になると、そろそろ周りの女の子たちが変わるのがわかる。自分たちの一つ上、6年生のオネエサンはもう立派な胸をしている人もいるし、その上の中学生になるとテレビで出てくるアイドルともう見た目に違いがない。
5年生の癖になんて・・・という人もいるかも知れないけれど、実際僕らの中で1組の木村は胸がどうとか、6年2組の青木さんはブラジャーをつけているとかそんな話を一日に一回ぐらいはしていた。でも、実際自分の親にもあるあの胸が、なぜそんなに恥ずかしいのか知っている訳がなかった。精子と卵子は知ってても、それはあくまで知識の中。時々上級生が 「何で子供が出来るか知っているか?」 「それは精子と卵子と・・・」 というと、フンッとえらそうに鼻で笑って 「やっぱりなぁー」 とか大きな声をわざと出して、ぽつんとたたずむ僕を置いて行ってしまう。それはまあ僕が越境入学で、そのバス停からバスに乗って行かなければ帰れないから、そこに立ち止まっている訳なんだけれど。 バスで家のそばまで行くと、そこは郊外のベッドタウンで、真新しい白い団地が何棟も建っていた。歩いて帰る道には幾つかの商店と、スーパーマーケットと後は白い団地が続いていた。 朝学校に行くときだいたい一人で小さな商店街とスーパーの前を歩いていく。そうするとちょっと高く盛り上がっているところに道が通っていて、そこにバス停があった。だいたい僕が行く時間には4~5人ぐらいの人が待っていて、バスが来る時間になると10人ぐらいまでになっている。時々待っている人が変わったり、僕自身が遅れたりするから変わってくるけどそれでもせいぜい20人ぐらいなので、名前はもちろん知らないけれど顔は知っている。団地を自転車で走っているときなんかに不意にその人を見る事があるけど、もちろん知らん振りして行ってしまう。団地に住んでいて、挨拶をしたり話したりしない野はごく普通だと思っていた。同じ棟に住んでいる友達はもちろん挨拶するし、そのお父さんやお母さんや兄弟なんかと会えばやっぱり挨拶するけど、バス停で並んでいる人とは・・・道で会っても挨拶はしなかった。何で?と言われても、そういうもんだと思っていたから。だから、バス停で待っている人の顔は全員知っていたけど、「おはようございます」はおろか話しなんかした事もなかった。みんなだまーってバスを待っていた。 バス待ちの顔見知りの人の中に、僕と同じ小学生はもちろん居なかった。みんな年上ばかりだった。それでも一番年が近いのは高校生のお兄さんとお姉さんだった。たぶん今だから分かるけど、二人は不良仲間でもしかしたら付き合っているか、すごく仲の良い友達。バス停ではいつも一緒だったし、バス待ちしている人の中でこの二人だけが喋っていた。そして男の人はかばんも靴もペッタンコで学生服のすそが長くて、ズボンもベルトの上が普通のより5センチは長かった。それに女の人のかばんも男の人に負けず劣らずペッタンコで、スカートは足首が辛うじて見える位まで長くて、髪の毛もカールしていてチョッと茶色っぽかった。 男の人は見るからに体がでかくて、きっと野球をやっていたに違いない。体がデカイ人はだいたい野球をやっていたんだ。 ある日僕はいつもの様に歩いてバス停に向かっていた。前にも書いたようにバス停とバスが走る道はちょっと高いところにあるので、そこに着く前にバスが行ってしまうのが見えてしまう。ただ5分間隔ぐらいで来るので、そんなに焦らないで次に乗ればいいや、というふうにあきらめてしまう。 その日も後4~500メートルぐらいのところでバスが来てしまった。僕の目の前の道路を左から右に赤いバスが走り去って行った。チェッと思って歩いていたら後ろからあの高校生の女の人が、あのスカートをバサバサいわせて僕を追い抜いていった。と、立ち止まって僕の方を見て 「ほら、走ろうよ。バスが行っちゃうよ」 と手招きをする。その女の人は僕を見て言っているので、僕に言っているのがすぐ分かった。それにつられてか、僕も素直にコクンとうなずきたったったったった・・・と走り出した。 「ほらほらもっと走って」 全速力で走ってもそのおねえさんには全然かなわなかった。向こうはかかとをつぶした革靴で、こっちは運動靴なのに全然かなわなかった。向こうは重くて長いスカートでこちらは短パンなのに全然かなわなかった。バス停ではバスが待っていた。おねえさんは入り口のステップで僕を待っていて、やっと追いついた僕の頭をぐりぐりっとなでた。 「やー早いねー。いいな男の子は。」 僕は何にもいわずに・・・でももしかしたちょっと会釈ぐらいはしたかもしれないが・・・バスに乗り込んだ。おねえさんは中で先に乗っていた彼氏に話しかけていた。横をすり抜けて後ろの方に行った僕はいつもの鉄棒をぎゅっと持つと 「それでは出発します」 と運転手がアナウンスをしてバスは出発した。 あの時おねえさんが下車する停留所までずっとおねえさんを見ていた。 降りるときは僕を見て手首から先だけ2,3回ヒラヒラッと振って降りていった。 大滝詠一『恋するカレン(UGAカラオケ動画)』 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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