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カテゴリ:■仕事の話■
酔っ払った中年のカップルが抱き合ったまま電車に乗っている。
電車が揺れるたびに女性が提げているエルメスのトートが、 私の膝裏にコツコツと当たる。 隣の男性はきょろきょろきょろきょろ。 座席が空かないか、見苦しいほどに辺りを見回している。 「だれかこの男性に席を譲ってあげて下さい」 などと言ってやりたいが、言えるわけもない。 これが終電のあるべき姿だからだ。 とはいえ、私は終電が嫌いなわけではない。 終電に乗ると何だか「仕事した」と云う気になるから。 その感覚は幻想だと分かりながらも、 会社の査定もノルマもないフリーランスが、 この感覚に出会えるのは実は貴重だ。 そもそも、働きたくても働けない人や、 営業してもうまくいかない人がいる中で、 終電で帰るだけの仕事があるということに 喜ばなくてはならない。 去年の今頃、Web製作のスクールに入学する手続きをした。 それは開業しても最初は仕事がないだろう、 1年は暇だろうと思っていたから。 最初は生活のため、 どんなに安い賃金でも働いた。 しかし少しづつ仕事が来るようになり、 年末には忙しくて回らなくなるほどになった。 結局何が決め手なのか分からず、 とりあえず「奇跡」と云うことにしておいた。 バッグをのぞく。 今月末で受講期限の切れるスクールのチケット。 大量に余っている。 帰りに、寄り道がてら、受講しようと バッグに忍ばせていたが、終電では意味がない。 とはいえ、スクールには行かなかったが 技術はそれなりに付いた。 技術は実践の中で勝手に養われていったのだ。 いつの間にか、トートも当たらなくなっていた。 最寄り駅に到着するアナウンスが聞こえ、 ドアが開く。 夜風が入り込んできて、それに春の匂いがした。 二年前より、一年前の私。 しかし、一年前の私と現在は確実に違う。 来年はどんな私が、この匂いに出会うのだろう。 現在の私に一年後はまったく描けない。 しかしそれがまた楽しめる要因だったりもする。 以上 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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