長編時代小説コーナ
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龍5777
基本的には時代小説を書いておりますが、時には思いつくままに政治、経済問題等を書く時があります。
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「士道惨なり」(10) 今夜は道中の緊張をほぐすか、そんな思いを胸に足を洗ってもらった。 「旦那、今晩はあたしを呼んで下さいな」 弦次郎の肯きをみて、お袖が客引きの為に駆けだしていった。 (あの飯盛女は只者ではないな) ひよっとすると公儀の狗かも知れぬ。 一夜を共にして正体を探ってやろう、そんな不敵な考えが湧いてきた。 旅籠町に夜の帳が落ちてきた。弦次郎は夕餉の膳の前に腰を据えている。 粗末な夕食である、これなら木賃宿に泊まったほうが良かった。元来の 木賃宿とは素泊まりで、自分で自炊して一夜の雨露をしのぐ粗末な宿のこと を言うが、旅籠は二食付で風呂もあり女もいた。 「旦那、お袖です」 しおらしい声とともにお袖が徳利と酒の肴を盆にのせ顔を現した。しばし、 沈黙のまま注がれる杯を口に運んだ。お袖が傍らで酌をしながら座っている。 「この稼業は初めてか?」 「なんでそんなことを言われます」 お袖の瞳に不安そうな色が浮かんだ。 「慣れぬ様子に見える」 お袖の顔色は白粉に隠され分からないが、顕かに態度に落ち着きがない。 開け放った窓から、灯りを求めて小虫が羽音をたて飛び交っている。 「寝るので簾をおらせ」 弦次郎が杯を伏せ、布団を敷くように顎をしゃくった。 お袖が布団の用意をしている姿を横目で眺め、村正を枕元に運び下帯姿 となった。お袖がもじもじと落ち着かない態度をしている。 「どうかいたしたか、早う済ませねば稼ぎになるまい」 「旦那、相方を替えておくんなさいな、急に女の病になりましたのさ」 弦次郎が苦笑した、お袖が同衾を嫌っておると見抜いたのだ。 「下手な芝居は止すことじゃ。拙者はそちが気にいった」 「お身体が汚れます」 「折角の美人じゃ、抱かぬ手はないわ」 布団の裾をもちあげ誘った、お袖が覚悟を決めたようだ。襦袢姿となり、 弦次郎の横に滑りこみ身を硬くしている。 「どういたした、男は初めてか」 弦次郎が揶揄いながら、抱き寄せ秘所に指を這わせた。 「あっ」 お袖が悲鳴をあげたが、そこは乾いていた。 「女の病はどうした」 弦次郎が強い口調で訊ね、お袖が弦次郎の躯に身を寄せた。 「旦那、怒らないで聞いて下さいな。あたしは頼まれましたのさ、立派な お刀袋を持ったお侍を見かけたら、武蔵屋に誘い込めと」 「拙者は承知で上がった」 「・・・知っておられましたか」 「そちは好みの女子じゃ」 耳元に囁き、お袖の狭間に指を遊ばせた。 「あっ」 お袖が甘い吐息を洩らした、本気で燃えてきたようだ。 「誰になにを頼まれた」 下帯を解きながら弦次郎が訊ねた。 「お武家さまからです。旦那が眠られたら、そのお刀を盗むように言われました のさ」 白状しながら身を揉んでいる、弦次郎が女の敏感な箇所をまさぐったのだ。 「旦那、いいよ」 お袖が歓喜の声をあげ身悶えている。 こうした不思議な状況下での交合は普段とは違って興奮を高めるようだ。 弦次郎の眼の前にしどけない姿態の女体がある、肌もきめ細かく男の欲情を そそる。(矢張りこの女は地元の女ではない) その思いが強まった。 「そちの生まれは何処じゃ、そして頼んだ者は何者じゃ」 「あたしは江戸の生まれです。・・・いいよ。・・・なんでも黒岩藩の藩士と お聞きいたしました」 お袖が白状しながら、身をもんでいる。 女の性器を愛撫していた弦次郎の眼が光った。 誰じゃ、このように手のこんだ策を練る者は。我が藩士が村正を盗み出す ように、この女に頼んだのか。 「どのような男じゃ、そちの顔見知りの者か?」 「昨日、お見かけしたお武家さまです、頬のそげた眼の鋭い方でした」 「なにっ」 一瞬、稲葉十右衛門の顔がよぎった。だが、江戸に向かった 彼が、この旅籠に一人で現れる訳がない。 形容の出来ない思いが胸の中を走りぬけた。彼が公儀の狗なのか、先日の 評定所での不遜な態度が蘇った。明日になれば稲葉十右衛門は江戸の目付 役人と一緒にこの宿場に現れる。 「旦那、抱いてくださいな」 欲情で潤んだお袖の声で我に返った。 思案してもこの刻限じゃ、なんの打ち手も出来ない。そう考えお袖の身体を 引き寄せた、今宵はこの女に溺れよう。 事が終わりお袖が上気した顔で弦次郎を見上げている。まだ二人は繋がった ままである。気だるい心地よさに浸り弦次郎が注意を与えた。 「明日になればその男が現れる、そちは姿を隠しておれ」 「あいな、分かりましたよ」 士道惨なり(1)へ
士道惨なり(最終回) Dec 28, 2010 コメント(7)
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