長編時代小説コーナ
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龍5777
基本的には時代小説を書いておりますが、時には思いつくままに政治、経済問題等を書く時があります。
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「士道惨なり」(15) 「十右衛門、直ちに関所を設け人の出入りを厳しく監視いたせ。それに 必要な人数はお主に任せる」 望月大膳が決断を下した。 「承知、して森家の処置はいかが計らいます」 「老夫婦に弦次郎の妻子じゃの、なんとか穏便に済ますことは出来ぬか」 土井武兵衛が顔を曇らせている。 「ご中老、お考えが甘うござる」 「わしの考えが甘いと申すか」 武兵衛が憤りの眼で稲葉を見つめた。 「隠れ忍びは抹殺いたす、これが藩にとっての最良の策にございます」 稲葉十右衛門がそげた頬に皮肉な笑みを浮かべ答えた。 「一家の者を皆殺しにすると申すか?」 「致し方ございませぬ」 「明日まで待て、筆頭家老として殿のお考えをお聞きいたす」 望月大膳が重い口をひらいた。 「殿のご了解は頂けますか」 「十右衛門、出すぎた口を挟むでない」 大膳の叱責がとんだ。 「待ちますが、明日を期限とお考え下され。機会を逃せば取り返しの つかないことになります」 「武家奉公とは残酷で非情なものじゃの」 土井武兵衛がぽっりと呟いた。彼はまだ弦次郎一家が、隠れ忍びとは 思われないのだ。 「今宵の評定はこれまでじゃ。十右衛門、その方は今から藩内、藩境ともども 万全な手配を講ずるのじゃ、森家の処置は殿のご裁定を待ってからといたす」 「畏まりましてござる」 稲葉十右衛門が素早く部屋から去った。 「望月殿、弦次郎一家が隠れ忍びの確証はござるのか?」 土井武兵衛が暗い眼で大膳をみつめた。 「わしにも分からぬ、じゃが、十右衛門や江戸からの目付役人の報告を聞け ば、森家の疑いは仕方がないと思われますな」 「そうよのう我等は譜代の家柄、それに対し森家は新参の家柄じゃ」 次席家老の亀田新左衛門も同意見のようである。武兵衛のみが信じられない 様子をみせていた。 「いずれにせよ明朝、殿に申し上げ、お考えをお聞きいたす。宜しいな」 筆頭家老の望月大膳が念をおした。 「森家は先君の忠直さまの剣術師範として当家に仕官した家柄。先々代の 亡くなった森十太夫の時代と聞いたおります。人格高潔で聞こえ、当家と しては異例な抜擢をうけ、馬廻役二百石取りの上士となったと聞き及びます。 それでも新参者、疑われても仕方がないと仰せにござるか」 土井武兵衛の言葉に皮肉が込められている。彼は弦次郎と一番身近に 接してきた仲であり、人柄や気象から察し信じられぬことであった。 「土井殿、我が藩に隠れ忍びが居ったことは紛れもない事実じゃ。時を失して はなりませぬ、藩のためです。ご了解下され」 望月大膳が頭を下げた。 翌朝、登城した望月大膳は、殿の忠義に隠れ忍びの件を語り終わり、裁定を 願いでていた。 「大膳、弦次郎一家が隠れ忍びと申すか?」 忠義の顔面が紅潮している、彼にも信じられないのだ。だが外様大名の藩主 とし、藩の生き残りを図ることは当然の義務である。 いかに信頼する弦次郎とは言えども見逃せる問題ではなかった。 「間違いはあるまいな?」 忠義の脳裡に村正の試し斬りの様子が蘇っていた。 「目付が総力をあげた探索の結果にございます。殿のご裁定を賜ります」 大膳が断腸の思いで平伏した。 「・・・あい分かった。公儀に洩れては一大事じゃ、藩境に藩士を繰り出し、 蟻一匹逃さぬように手配いたせ」 「はっ、して森家の処置はいかが取り計らいましょうゃ」 「う-ん」 忠義は唸った。 目付の稲葉十右衛門に討ち果たされたと言えども、自分が最も信頼をおい た藩士の家である。聞けば老夫婦と弦次郎の妻子が居るという、隠れ忍びの 嫌疑があると言えども、いまだに確たる証拠はなにもないのだ。 士道惨なり(1)へ
士道惨なり(最終回) Dec 28, 2010 コメント(7)
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