1187192 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

長編時代小説コーナ

長編時代小説コーナ

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

Keyword Search

▼キーワード検索

Profile

龍5777

龍5777

Favorite Blog

一段落! New! 韓国の達人!さん

シュウマイ New! Pearunさん

^-^◆ 思わず にっと… New! 和活喜さん

阪神タイガース、ア… New! クラッチハニーさん

天使の箱庭 第6話 New! 千菊丸2151さん

Comments

 人間辛抱@ Re:何故、安保法制が必要なのか。 (08/09) どうもお久しぶりです。 新型コロナウイル…
 http://buycialisky.com/@ Re:士道惨なり(11)(12/10) cialis muscle paincialis daily use side…
 http://buycialisky.com/@ Re:改定  上杉景勝(12/11) cialis 5 mg prezzo in farmaciaanti cial…
 http://buycialisky.com/@ Re:騒乱江戸湊(04/28) cialis in spanien kaufenavoid counterfe…
 http://buycialisky.com/@ Re:「改訂  上杉景勝」(04/21) what happens if a woman takes viagra or…
 http://viagraky.com/@ Re:士道惨なり(11)(12/10) offshore viagra &lt;a href=&quot; <sma…

Category

Freepage List

Calendar

Dec 17, 2010
XML
カテゴリ:士道惨なり

にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ クール にほんブログ村 小説ブログへ 


「士道惨なり」(17)

 これは何かの間違いじゃ。弦太夫は門前に佇み去り行く稲葉十右衛門を

眼で追った。倅の竹馬の友と言われた男の変貌ぶりに驚きを感じていた。

 彼の眼の前に人足が現れ、手際よく屋敷を竹矢来で囲んでいる。

(藩は我等一家を皆殺しにする) 弦太夫は悟った。

 なぜ藩が我が家にこのような仕打ちをするのか、彼には理解出来ないのだ。

 だが目前の光景は藩の考えを明確に物語っている。十右衛門が示した

上意書が蘇った。(冤罪じゃ、誰がこのような事を藩に直訴したのじゃ)

 弦太夫は茫然と門前に広がる光景を見つめ、考えを巡らせた。

 どう考えても理解出来ないが、藩士等は殺気を漲らせている。

 弦太夫は怒りを飲み込み、大扉を閉じ閂(かんぬき)をかけた。

 このままおめおめと自害なぞ出来ぬ、藩が藩なら力の続く限り槍働きを

見せ付けてやる。謂れもない憤りが身内を駆けまわっていた。

 彼は玄関に入り、そこにも閂をかけた。

「死罪を仰せつけられましたのか?」 千代が優れない顔色で訊ねた。

「我が家に隠れ忍びの嫌疑がかけられた。暮れ六までの命じゃ、わしは

自害なんぞせぬ。死人の山をきずき我が家の武門の意地を見せてやる」

 弦太夫は背をしゃきつと伸ばし居間に戻った。

「父上さま、夫は亡くなりましたのか?」 香代がひっそりと座っていた。

「香代、弦次郎を討ち果たしたと十右衛門がほざきおったが、奴の腕では

弦次郎は倒せぬ」  「あの稲葉さまが夫を手にかけましたか」

「香代、我等は死ぬ。じゃが、弦次郎は生きておると信じておる」

 飲みかけの茶で咽喉を潤し、深々と座布団に腰を据えた。

(なぜじゃ。あれほど信頼を頂い我が家に、・・・誰の讒訴じゃ)

 弦太夫の脳裡に先刻のふてぶてしい十右衛門の顔がよぎった。

 弦一と路が不安そうに寄りそっている。不憫じゃがわしの手で冥途に

送ることになろう、弦太夫は一家の不運を呪った。倅がおればずいぶんと

心強いが、弦次郎は討ち果たされたと言う。それが真実かどうかは別とし

て無念であった。

「お腹の子が不憫じゃ。わしを許せ、落ち着いたら子供達を奥に移せ」

 神妙に肯き香代は気丈に振舞っている。

 弦太夫は老妻の千代と香代に命じた。

「すべての畳をあげ廊下の横に積み上げるのじゃ。奴等が居間に侵入する

道はこの廊下一筋とする」 

 廊下を闘いの場とすべく考えたのだ。それなれば左右、背後を心配する

必要はない、思う存分に闘ってみせる。

 二人が懸命に畳をあげ積み上げている様子を眺め、彼は勝手口に入り、

一升徳利を持って居間に引き上げた。そうして愛用の手槍を引き寄せ穂先

を眺めた。この歳で槍を遣うことに成ろうとは思いもしなかった。

 女達が仕事を済ませ居間に集まった。

 彼は湯飲みに酒を注ぎ一口飲み干し、老妻の千代に手渡した。

「最後の酒じゃ、それぞれ一口だけ飲み交わせ、また冥途で遭おうぞ」

 弦太夫は二人を見やり、壮絶な笑みを頬に刻んだ。

「貴方、わたし達もご一緒に闘います」 千代の瞳は澄んでいた。

 死を覚悟した者の瞳の色であった。

「それはならぬ、わしの足手まといとなるわ」

 弦太夫が声なく破顔した。二人の孫が心労で居眠りを始めた。

「香代、子供達を奥の部屋にの」

 香代は子供達を寝かせつけ、心中で訊ねていた。

(貴方は亡くなられましたのか、わたしも子等も直ぐに参ります)

 そっとお腹をさすった、お腹の子が動いたように感じられたのだ。

「千代、腹が減った。握り飯を頼む」

 弦太夫が命じ苦笑を浮かべた、最後まで妻に苦労をかけることになったと

思ったのだ。屋内に闇が覆いはじめた、外は薄暮となっておろう。

「千代、香代ここに参れ」 二人がひっそりと弦太夫の前に座った。

士道惨なり(1)へ








お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  Dec 17, 2010 11:56:00 AM
コメント(6) | コメントを書く
[士道惨なり] カテゴリの最新記事



© Rakuten Group, Inc.
X