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Dec 24, 2010
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カテゴリ:士道惨なり

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   「士道惨なり」(23)

 黒岩藩は弦次郎の出現で暗雲につつまれた。

 それは弦次郎が持参している、村正の存在である。いつ彼がそれを公儀に

差し出すか、それが殿の忠義をはじめ重臣等の恐れであった。

 そうした中でまたもや第二の惨劇が起こったのだ。

 稲葉十右衛門の門前に血塗れの首が置かれていたのだ。

「旦那さま、お屋敷の門前に首が置かれておりますぞ」

 小者が血相を変えて十右衛門に急を告げたのだ。

「なにっ」  十右衛門は門前に駆けつけ、息を飲み込んだ。

 血塗れの首は目付役人の浅井弾之助であった。

「弦次郎め、わしへの挑戦か」 稲葉十右衛門はそう感じた。

 今度はわしを狙うつもりじゃな、十右衛門は弦次郎の復讐の執念を

この事件で確信した。浅井弾之助は藩内でも聞こえた遣い手であった。

 その彼がかくも簡単に首を打たれるとは、さしもの十右衛門も思い及ばな

かった。稲葉十右衛門は城内の望月大膳に変事を知らせた。

 城内の重臣等は恐怖の淵に追い込まれたのだ。

「稲葉っ、そちの探索の甘さがこの結果じゃ。直ちに奴を捕らえよ」

 望月大膳の激がとんだが、稲葉十右衛門には打ち手がなかった。

 ただ藩境の警護を万全とし、弦次郎の逃亡を阻止する事で精一杯であった。

 こうした緊張感に包まれた城下町に夜の帳が落ち、諸所に強盗提灯の灯りが

ちらちらと光っている。更に夜が更け、ひたひたと微かな足音が聞こえてきた。

 闇の中に孤影が現れた、それは弦次郎であった。

 彼は迷うことなく焼け跡に近づき、墓標の前にぬかずいた。

「親父殿、それに皆、明朝にはわしもそなた等の許に行く」

 弦次郎が呟いた。 「旦那さま」

 突然に低い声をかけられ、弦次郎が大刀の柄に手を添えた。

「森弦次郎さまですね」  「その方は誰じゃ」

 暗闇の中に小さな影が平伏している。

「土井家に雇われております、小者の平助と申します」

「ご中老の小者がなぜこのような場所におる?」

 辺りを警戒し、低く弦次郎が訊ねた。

「ご中老さまの命でお待ち申しておりました」  「・・・・」

「貴方さまがこの焼け跡に参られると申され、わたしめを遣わされました」

「わしに何用じゃ」 「ご中老さまは貴方さまのお味方にございます」

「平助とやら、もう遅いのじゃ。わしは朝までこの焼け跡に居る。腰の村正で

藩と一戦いたす覚悟じゃ」  「そのような無謀は成りませぬ」

 冷たい風が吹きぬけ、雲間から朧月が現れた。

「わしは藩に裏切られ、挙句に家族を失った。その弔い合戦じゃ」

 弦次郎が気負いもみせずに乾いた声で言い放った。

「間違いにございます。貴方さまの真の仇は大目付の稲葉十右衛門さま、

ご中老は殿さまに諫言できず、貴方さまに詫びておられます」

「今更、後戻りは出来ぬ。ここには我が一家が眠っておる」

「ご翻意を、墓碑はご中老さまの命でわたしが立てました」

「なんと、お主が弔ってくれたのか?」

「はい、これもご中老さまのたっての願いにございました」

 弦次郎は言葉を失った。風が吹きぬけ枯葉が舞い上がった。

「黒岩藩は、わしが引導をわたす。諦めて頂くと申し上げよ」

「どうあっても、お命をお捨てに成りますか」

「お主には心から礼を申す。・・・戻るのじゃ」

 毅然とした弦次郎の言葉に、平助は答えるすべをなくし悄然として闇の

中に消え去った。

 その姿を見送り弦次郎は村正を鞘ごと抜き、胸に抱えうずくまった。

 土井武兵衛の顔が浮かんだ。いつも肥満した体躯で汗を流されていた、

あの方だけがわしの味方であった。お会いし話し合っても無駄じゃ、わしの命は

この藩と一緒に明日には消える。彼はみぎろぎもせず闇に溶け込んでいた。

 空が白々と明けはじめた、軒を並べた藩士の屋敷が浮かびあがってきた。

 冷えた身体では十分な働きが出来ぬ、そう感じ立ち上がり村正を腰に佩び

た。全てはこの刀から始まったのだ。今日はこの刀で決着を計る。

 黒糸捻りの柄を握り、素早く抜き放った。刃が一閃、二閃と空気を裂いて

迸り、鍔鳴りの音を響かせ鞘に納まった。

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Last updated  Dec 24, 2010 11:09:05 AM
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