長編時代小説コーナ
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龍5777
基本的には時代小説を書いておりますが、時には思いつくままに政治、経済問題等を書く時があります。
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「黄昏の末(5) (語らい) 久しぶりに友人の一人からお誘いがきた。彼は居酒屋の亭主で 万福という名前で店を出している。三十前からのゴルフ仲間で山ちゃんと 呼ばれている。もう数年前に年上の妻を亡くし一人身を通していた。 「宗さん、宮ちゃんも来ると言っていた」 宮ちゃんとは宮田と言うが、彼も万福のゴルフコンペで一緒し、それ以来 友人として付き合ってきた。おいらと山ちゃんは同年齢で、宮ちゃんは四年 年上であったが、お互いに隔たりもなく付き合ってきた。 約束の時間を決め、おいらは久しぶりに夜の街に遊びに出た。北風の激しい 夜で、身を縮め歩を進めた。おいらは脳梗塞を患い、左半身に後遺症が残り歩 くのが苦手であった。左足を庇いながら目指す万福の店に着いた。 「宋さん、久しぶりだね。体調はどう?」 山ちゃんが屈託のない笑顔で出迎えた。 「まずまずだよ。あんたはどう」 「変わりはないよ」 「ビールを頼む」 おいらは隅の指定席に腰をおろした。 「ご免、遅くなった」 北風とともに宮ちゃんが寒そうな顔を見せたのは、おいら が一杯のコップを空にした時だ。店は早い時間で我々のみであった。 刺身の盛り合わせを肴に、ひとわたり世間話に花を咲かせた。 三人は同年代で山ちゃんをのぞけば、おいらも宮ちゃんも年金生活者であ る。酔いが心地よく身体を巡るにつれ、話題は女の話になってくる。 「宋ちゃん、おれの倅は勃ったなくなったが、あんたはどう?」 宮ちゃんが熱燗を口に運び、心もち寂しそうに訊ねてきた。 「おれは未だ現役だが、相手がいないよ」 「もう一度遣りたいね」 カウンタ越しから山ちゃんが割って入ってきた。 「あんたはいいよ日銭が入るから、おれと宋ちゃんは余分な銭がはいらないか ら、遊びたいが出来ないよ」 宮ちゃんの本音であるが、おいらも同感であっ た。「おれも宮ちゃんと同じく倅が駄目だよ。それにしても宋さんはいいよな、 散々、遊んできたから」 山ちゃんが白い坊主頭に鉢巻を巻いた顔で言葉を そいた。確かにおいらは三人の中で一番遊んだ口であるが、反論した。 「お互いさまだよ。北陸にゴルフに行っては十九番を遣ってきたんだから」 おいら達は北陸にゴルフを遣りに行き、そこで玄人女と遊ぶことを楽しみに してきた。山ちゃんも宮ちゃんも、素人女との遊びは皆無にちかく、温泉場の 女をセックスの対象としていた。戻っても夜の繁華街で女を紹介するクラブで 女を斡旋され、欲望のはけ口としてきたのだ。 そういう意味では、おいらは恵まれていた。 「歳をとっても女の話ばかりだね、おれ達、国宝級のスケベだね」 山ちゃんが自嘲的な笑いを浮かべた。 黄昏の末<1)へ