長編時代小説コーナ
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龍5777
基本的には時代小説を書いておりますが、時には思いつくままに政治、経済問題等を書く時があります。
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「騒乱江戸湊(2) 「源次郎、景気がよさそうじゃな」 声をかけた十右衛門は歳のころ三十半ばで、厳つい相貌ながら目元の 涼やかな男であった。一方の源次郎は同年ながら、小柄の体躯で頬が ふっくらとした童顔で負けん気を表に現している。 十右衛門は千葉道場で剣を学び、源次郎は小野派一刀流の団子坂にある、 浅利又七郎の道場で修業をした。二人は目録止まりであったが、なかなか筋 の良い剣を遣う男であった。 一杯目を飲み干した二人が満足そうに太い吐息を吐いた。 「美味いのうー」 「源次郎、話があるのじゃろう。聞こうか?」 口端を拭っている源次郎に、十右衛門が厳つい顔をむけた。 「我ら二人に特命が下った」 源次郎が顔つきを厳しくし低い声で告げた。 「なにー、特命とはなんじゃ」 「江戸の闇世界に大物がひそみおることは承知じゃな。その巣窟が どうも浅草界隈の水茶屋を本拠としているらしい」 「待て、水茶屋や岡場所は水野忠邦さまの改革で禁止されたはずじゃ」 十右衛門が源次郎の言葉をさえぎった。 「またぞろ芽を噴き出したしたと言うことじゃ。その黒幕が風評では闇公方と 名乗る不届き者と聞いた」 「本当か、・・・・それが真実なら不埒なことじゃ」 十右衛門が憤りのこもった声で尋ねかえした。 「水茶屋の発祥の地が、浅草奥山であることは承知しておるな」 源次郎が念をおした。言われなくとも十右衛門でも判っている。 奥山の水茶屋は江戸名物として栄えてきたのだ、初めは浅草寺観音堂 参拝者の休憩場として利用され、そのうちに吉原通いの客が立ち寄るように なった。寺社の茶屋でだされるお茶は仏供の意味もあり、お参り後は必ず、 一服したものであった。ところがお茶だけでなく酒の提供や女の斡旋にまで 手をだし、岡場所まがいの体をなしたのだ。 そんな現状を憂い天保の改革のおり、岡場所ともども禁止されたのだ。 その奥山とは浅草寺観音堂の北側から西側一帯を称し、見世物や大道芸 で有名な江戸屈指の盛り場であった。 「いくらお上が躍起となって禁止しても、この道だけはどうにもならぬ。 一度甘い汁をすった者はやめられぬ。またぞろ目をつけ再建した奴がいる、 そいつが闇公方と名乗る不届き者じゃ」 「それで我らに特命が下った訳か?」 「お頭の呼び出しがあっての、拙者とお主に密命が下ったのじゃ。我らは 火付盗賊改方に任じられた」 源次郎がにやりと破顔し、美味そうに湯呑みを空けた。 騒乱江戸湊(1)へ
騒乱江戸湊 Aug 9, 2011 コメント(198)
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