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Apr 20, 2011
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カテゴリ:伊庭求馬無情剣

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      「騒乱江戸湊(5)

「貴様らを手討ちにいたすぞ」

 勝沼十右衛門も自慢の大刀を抜き放った。凍りついた空気に殺気が

漂い、残った二人のやくざ者が蒼白となった。

「お侍さま、待っておくんなせえ。家の若い者がとんだ粗相をいたしゃした。

あっしが浅草の由蔵にございやす」

 どすの利いた声がかかり、縞模様の長羽織をぞろりと羽織、皮足袋に草鞋

を履いた男が姿を現した。男の左右には用心棒と思われる五名の浪人が

従っている。いずれも一癖も二癖もある荒んだ顔つきの男らであった。

「やむをえぬ仕儀で一人の手首を斬り放った」

 源次郎が童顔を引き締め怒り声を発した。

「堅気のお方には手をだすなと申し聞かせておりゃしたが、申し訳ありゃせん。

あっしの面(つら)で、この場は勘弁なすっては頂けませんか」

「サンピンなんぞと言われ黙ってはおれぬ、この道は通っちゃいけねえのかえ」

 憤りの収まらぬ源次郎が喰ってかかった。

「そんなことはございやせん、どうか堪忍下さえ」

 由蔵が手をもみながら下手に出てきた。

 「ならば了解いたした」 源次郎が応諾した。

「早速のお聞き届け有難うございやす。子分共の不始末のお詫びとし、これは

些少ではございやすが、お修め下せえ」

 由蔵が紙包みを子分に手渡し、手下が恐る恐る差し出した。

「我らは物乞いではない」  十右衛門が穏やかに断った。

「そう言わずに、どうか収めてやっておくんなせえ」

 小太りで三十後半の年代の男で赤ら顔をした獰猛な面の男である。

「左様か、ならば遠慮のう頂戴する」

 源次郎が十右衛門を制するようにし受け取った。これが源次郎である。

「馬鹿野郎が、てめいらは家に帰んな」

 由蔵の叱責をあび三人がこそこそと姿を消した。

「お侍さま、この寒空になんでこんな場所をうろついていなさる」

 顔は笑っているが眼は笑っていない。

「この辺りに賭場があると聞いてな、確かめに参った」

「賭場はございゃが、陽が落ちやせんと開帳とはいきませんぜ」

 由蔵が答え、眼を細め二人のくたびれた姿を観察している。

「親分の賭場かえ、ならば我らでも遣らしてくれるかえ?」

 十右衛門が用心棒の気配をうかがいながら訊いた。

「賭場は禁制ですぜ、お侍さまは何者にございゃす」

「御家人の無役者じゃ」  すかさず源次郎が応対した。

「左様にございやすか、では遠慮のうお出かけ下せえ」

「有難い」  

 二人が顔を見合わせた、この雪道をたどった来た甲斐があった。

 二人が名乗ると由蔵が低頭し、用心棒を引き連れ雪深い林に消えた。

「いくら入っておる」  十右衛門が由蔵らを見送り性急に訊ねた。

「三両じゃ。腹も減ったし冷えが激しい、どこぞで蕎麦でも喰って山分けじゃ」

 源次郎が紙包みを懐中に納め、二人はもとの小道をひき返した。

 その様子を物陰から由蔵が陰湿な眼で見つめていた。

「先生方、今夜あの二人が賭場に現れるかもしれやせん。怪しい素振りが

見えたら、遠慮なく片付けておくんなせえ」

「承知」  五名の頭分らしき浪人が簡潔に返答した。


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Last updated  Apr 20, 2011 07:01:34 PM
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