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Apr 21, 2011
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カテゴリ:伊庭求馬無情剣

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      「騒乱江戸湊(6)

 古賀源次郎と勝沼十右衛門は、雪道を引き返し浅草寺の近くの

蕎麦屋に入った。二人は蕎麦と熱燗を頼み密談をかわした。

「今夜、賭場に行くぞ」

「源次郎、ここは慎重にせねぱな。どうも危険な臭いがする」

 十右衛門が源次郎を諭すように目元を厳しくさせた。

「心配するな、賭場は拙者一人で行く。お主は水茶屋をあたってくれ」

 源次郎が熱燗を飲み干した。

「先走ってはいかん、まずお頭に報告致そう」

「十右衛門、折角の機会じゃ。それに軍資金もある、今夜は様子見じゃ」

 十右衛門の忠告を聞かず、源次郎が美味そうに音をたて蕎麦を啜った。

「分かった、拙者は水茶屋をあたろう」

「そうでなければ面白くもない」

 源次郎が童顔をほころばした。常に十右衛門に対してはこうであり、人の

意見なんぞ屁とも思わぬのが、源次郎の癖であった。

「十右衛門、由蔵からせしめた金子は山分けとするが、一両だけ貸してくれ」

「それは良いが、本当に大事ないか?」

 十右衛門が心配そうに顔を曇らせた。

「博打の元手は三両ほどになる、これだけあれば大丈夫じゃ」

 源次郎が懐中から紙包みを取り出し、全てを己の財布に入れ、二分判金を

一枚、十右衛門の前に置いた。

 この時代は二分判金二枚で一両であった。

「お主、水茶屋に揚がる金子は大丈夫か?」

「心配するな、貧乏人でも今の分け前で一両ほどになる」

 十右衛門が目元を和ませた。

「そうじゃな、お主は妓と遊んでこい。暮れ六つ半(午後七時)に賭場に出向く、

四つ半(午後十一時)に浅草寺の門前で会おう」

 二人は闇が落ちた時刻を見計らって探索にのり出した。

   (二章)

 古賀源次郎は賭場の片隅に座り、コマ札を手にさりげなく周囲を

用心深く眺めている。ここまで来るのに散々と歩かされ、ようやく着いた

のだ。見込みどおり客筋はなかなかと豪勢である。

 金貸しを営む大店の川野屋、木綿問屋吉田屋の主人、それに僧侶までが

混じり夢中となっている。

「丁方ないか、丁方ないか」

 声に誘われコマ札を出した。賭場は熱気で暑いほどである。

「コマそろいました。勝負」  緊張した声が響き客の視線が壷に集まった。

「ピンぞろの丁」

 客から吐息が洩れた、またもや賽の目が丁を出したのだ。

 先刻から丁目がつづいている。これまでの勝負で源次郎は五両ほどの

大金を稼いでいた。もともと彼には博才があったのだ。

 賭け金からみて、かなり大がかりの賭場と確信を強めた。そろそろ潮時

じゃ、とコマ札一枚を壷振りに投げ与え席を立った。

「旦那、もうお帰りですかえ」

 代貸しの仏の金兵衛が脂ぎった顔をみせ声をかけた。

「今夜は物見じゃ、楽しませてもらった」

 源次郎は稼いだ銭を財布に入れ、賭場から去った。由蔵の視線の強さを

感じてのことである。

「野郎、一人勝ちですぜ」

「臭いが今日のところは帰してやんな」

 由蔵が獰猛な顔で肯いた。


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Last updated  Apr 22, 2011 07:48:34 AM
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