長編時代小説コーナ
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龍5777
基本的には時代小説を書いておりますが、時には思いつくままに政治、経済問題等を書く時があります。
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「騒乱江戸湊(9) 十右衛門も何年ぶりに女を抱き、その余韻に浸りながらおよねの乳房に 手を這わせた。そこは汗ばみ、まだ固い蕾のような乳房の感触がした。 「ああ・・・旦さん、もう一度抱いて下さいな」 妓の欲情の声に誘われた時、十右衛門の脳裡に先刻の宗匠頭巾の男の 姿がよぎった。 (何か臭う) そう感じたとたんに十右衛門が褥から飛び出し、素早く身繕いを終えた。 「旦さん、お帰りですか」 「およね、また来る」 十右衛門は部屋を出て帳場で勘定を済ませ、冷え込んだ外に駈け出した。 彼は奥山から観音堂の小道を急いだ。観音堂は銀杏で有名であったが、 今はすっかり葉を落とし枯れた小枝が暗闇を覆い隠している。 その翳に隠れ小さな祠が眼についた。迷わず祠に身を潜めた。 暫くすると凍った雪道に高下駄の音が響いてきた。十右衛門が眼を凝らした。 前後を警戒する浪人を従い、提灯を持った男が足元を照らしながら案内を している。その明かりのなかを宗匠頭巾の男が高下駄の音を鳴らし、ゆったり とした歩調で歩んで行く。十右衛門の視線が強まった。 黒の紋服袴姿に大小をたばさんだ大兵の武士である。腰の据わりが尋常で はない、かなりの剣の遣い手としれる。 一行は十右衛門の隠れている祠の前を通りすぎた。 十右衛門が足音を消し追跡をはじめた、幸いにも提灯の灯りがもってこいの 目印である。そろそろ浅草寺に近い場所に近づいていた。 「ここでよい」 武士が案内にたった男に声をかけた。 「へい、お気をつけてお帰り下さい」 返答した男の声に聞き覚えがあった、それはこの辺りを縄張りとする浅草の 由蔵の声であった。 (由蔵がつるんでおったか) 十右衛門は合点する思いでその声を聞いた。 由蔵の声を背に、宗匠頭巾の武士は境内を抜け表通りへと向かった。 門の隅に立派な駕籠と数名の武士が出迎えていた。 「待たして済まぬ」 野太い声をかけ駕籠に乗り込んだ。 一行は灯りも点さず粛々と暗い江戸の町並みを進んでゆく。 「十右衛門」 境内の柱の翳から源次郎の声がした。 「あの一行が怪しい、追のじゃ」 二人は獣のように巧妙に追跡を開始した。 「いかん」 十右衛門が低く呟き唇を噛みしめた。 「どうした」 源次郎が足を止め闇を透かし見ている。 「この通りをみろ、奴等は御厩河岸(おうまやがし)に向かっておる」 「しまった、奴等は船に乗るな」 思った通り一行は御厩河岸に駕籠を止めた、船着場には二艘の屋形船 が待機していた。一行が乗り込み一艘の艫(とも)に駕籠を積み込み大川の 闇夜に姿を消し去った。 「あの一行は何者じゃ」 「分からぬ」 「十右衛門、冷えるな何処ぞで一杯飲もう。そこで話し合いじゃ」 源次郎に誘われ、二人は手頃の居酒屋を見つけた。 「亭主、熱燗とおでんをみつくろってくれろ」 二人は奥の醤油樽に腰を据え首尾を語り合った。 「水茶屋の黒幕が、お主が追っていた駕籠の主か?」 「分からぬ。源次郎、賭場の様子はどうじゃ」 「すべてが昔に戻っておる。すべて浅草の由蔵が仕切っておるは」 源次郎が吐き捨てるように口調で告げた。 「源次郎、由蔵は先刻の駕籠の主とも繋がっておる」 「本当か?」 源次郎が童顔が引きしめ、十右衛門が穏やかな口調で見てきた経緯を 詳細に告げ、一行を浅草寺まで案内した男が由蔵であることも語り終えた。 騒乱江戸湊(1)へ
騒乱江戸湊 Aug 9, 2011 コメント(198)
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