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May 1, 2011
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カテゴリ:伊庭求馬無情剣

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      「騒乱江戸湊(15)

 求馬は旅の途中に薩摩藩に立ち寄り、薩摩藩になんとなくきな臭い

思いを感じとったのだ。

 それ故に大目付の嘉納主水に薩摩藩の動きを知らせたかったのだ。

 求馬は冷え込んだ道を辿り、日本橋へと向かっていた。暗闇の広まる

大川には船首に灯りを点し、獲物の魚を満載にした荷船が数艘、魚河岸へと

漕ぎ進んでいる。河岸の灯りの点滅が遠目から見える。

 日本橋河岸の魚市場はもう動きだしているようだ。

 朝千両と呼ばれる江戸の商いは、河岸の魚市場からはじまる。

 求馬はいつもの黒羽二重の着流し姿で、町中をゆったりと歩んでいた。

 既に四つ半(午後十一時)をとうにまわっている。開花に遅れた寒椿が、

闇の中に白く朧に浮かび、唐突に筑波おろしの寒風が吹き抜けた。

 彼は日本橋を渡り川面を見おろした、二艘の屋形船が灯りを消して品川

方面に向かっている。船首の灯りのみが輝いている。

 品川宿でお大尽遊びをした客を迎えに行く船のようだ。

 橋を渡り終え道を右にとり軒下の小道を急いだ。

 懐かしいお蘭の家が見えてきた。小粋な玄関には小さな燈火が点っている、

求馬がいつ帰ってきても、心置きなくもどれるように、お蘭が心を込めて点し

ておいたものと分かる。玄関をそっと開けた。

 心が和む匂いが求馬の痩身を包み込んだ。

「お蘭、今、戻った」  「旦那、・・・旦那ですか?」

 部屋の中から小さく驚きの声があがり、襖が開き半身模様の寝衣装姿の

お蘭が顔を見せ、言葉もなく求馬の無事な姿を凝視している。

 鬢(びん)のほつれ毛を色っぽく見せ、大粒の涙が頬を伝え流れている。

「旦那、どこに雲隠れしておられましたのさ」

 声と同時にすがりつき、むっちりとした女体が求馬の腕の中で悶えた。

「お蘭、心配を掛けさせた」

「糸の切れた凧のように姿を消して、どんなに心配したか知らないでしよ」

 お蘭らしく伝法な口調が心地よく胸に響いた。

「江戸に帰り、家に戻るまいに一杯ですか」

 お蘭が啖呵をきった、酒臭い息が耐えられないのだ。

「先刻まで嘉納殿と飲んでおった」

「嘉納の殿さまと?」

「そうじゃ、怒るな。冷酒を一杯くれ」

「旦那、炬燵に入って待っていて下さいな」

 嘉納主水の名前で何事か察し、お蘭はお勝手へと消えた。

 求馬は佩刀を刀掛けに置き炬燵に足を入れた。

 身内から暖かさが戻ってきた。

 お蘭がお勝手で甲斐甲斐しく動きまわる様子が手にとるように分かる。

「何もなくてご免なさいな」

 徳利と肴が並べられ、お蘭の指が新鮮にみえた。

 求馬の杯を満たしたお蘭が、求馬の痩身に躰をあずけ眼を瞑った。

 あれこれ言いたいことは山ほどあるだろうが、じっと我慢している姿が不憫に

思われた。

「旦那、あたしにも下さいな」

 口うつしで飲ませるとお蘭がしがみついてきた。

「旦那、飲み終えたら抱いておくんなさいな」

 濡れぬれとした眸に複雑な色が浮かんでいる。喜び、悲しみ、恨み、愛しさ、

そんな気持ちが混ざりあっている。

 その後、二人は獣のような激しい営みを交わした。お蘭の躰から雌の匂いが

立ちのぼり、透き通るような白いお蘭の腰や乳房、下腹部の柔肌に求馬は

秘技をつくしお蘭を悦ばせた。

 何度もお蘭は歓喜と絶頂の渦に飲み込まれ、求馬の名を呼び喘ぎ続けた。


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Last updated  May 1, 2011 03:36:23 PM
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