長編時代小説コーナ
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龍5777
基本的には時代小説を書いておりますが、時には思いつくままに政治、経済問題等を書く時があります。
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「騒乱江戸湊(19) 勝負に負けた客が樽酒を湯呑みに注ぎ憂さを晴らしていた。 「拙者にも一杯くれんか」 源次郎が丼に盛られた沢庵を頬張り、樽の横に腰を据えた。 手下が無愛想な面で湯呑みを差しだし、無言でうけ咽喉に流し込んだ。 「旦那、今夜は目がでないようですな」 由蔵が足音を忍ばせ、ひっそりと傍らに寄ってきた。 「なにか用かな?」 「へい、旦那にお聞きしたいことがございやす」 源次郎が由蔵の顔に視線を移した。 「昨夜、手下が三人殺されやした。下手人を捜しておりやす」 由蔵が眼を細め訊ねた、その眸には嘘は許さないという光が宿っている。 「斬ったのは拙者の相棒じゃ」 源次郎が素っ気なく答えた。 「やはり、そうでしたかえ」 由蔵が獰猛な顔つきを変えずに肯いた。 「親分、怒っちゃいけねえよ、仕掛けたのはあんたの手下の方じゃ」 「なんですってー」 由蔵が面食らった顔をした。 「万八亭の帰りに闇討ちにあったそうじゃ。あの見世も親分の縄張りのうち と聞いたぜ、客を襲うとはひどい話だぜ。そうじゃないかね、元をただせば 拙者等にいちゃもんをつけた所為だ」 源次郎が童顔を引き締め強い口調でたしなめた。 「・・・奴等が闇討ちを仕掛けた訳が分かんねえ」 「さしずめ手首を刎ねられた恨みだろうぜ」 湯呑みの酒を飲み干し、源次郎が立ち上がった。 「ついてねえんで拙者は帰るが、昨夜の二の舞は御免だぜ」 源次郎の体躯から強い気迫が湧いた。 「旦那、あっしが悪かった、許しておくんなせえ」 由蔵が獰猛な顔にお愛想笑いを浮かべている。 「あんたの飼い犬の五匹じゃあ、拙者は斬れねえよ」 源次郎が捨て台詞を残して賭場を去った。 「親分、殺るかね」 すいっと五名の用心棒が現れた。 「あの二人はきな臭いが、暫く泳がせやす。殺る時はあっしが先生方に お願いしゃす、いいですね」 (二章) その晩の深更、由蔵のもとに一人の浪人が訪れてきた。長身で鋼のような 体躯をし、左眼だけ糸のように細い精悍な風貌の男であった。 「何か用でございやすか?」 由蔵が浪人の身なりに眼を配り訊ねた。 「おいの名は橋口龍五郎にごわす。・・・異名は地獄の龍ばってん」 低いが肺腑(はいふ)をえぐるような声の主である。 「地獄の龍とは貴方さまにございやすか?」 由蔵が顔色を蒼白としている。裏世界では知らぬ者もない一流の殺し屋で 出身は薩摩で、示現流の達人として噂される男である。 地獄の龍と名乗った男が懐から、一枚の紙切れを取り出し差しだした。 「これは・・・」 一目、見た由蔵の肌があわ立った。三つ葉葵の紋どころの真ん中に髑髏が 不気味に描かれている。 「闇公方さまのお使いにございやすか?」 「おはんの用心棒として賭場につめるよう指図をうけ、参上したとばい」 浅黒い相貌をし左眼を糸のように細め、その眼から刺すような殺気を立ち のぼらせている。軒を伝う雨だれが地面に落ちるあいだに、抜き打ちを二回 繰り返したと言われる、凄腕の殺し屋とて知られていた。 「この界隈を嗅ぎまわる小役人が居るそうにごわんな。そげな奴を斬ることが おいの勤めにごわす」 地獄の龍は平然と嘯いた。 「有難い先生、あっしに出来ることは何でも申しつけておくんなせえ」 「先生なんぞと呼ぶことはなか、橋口で結構にごわす」 騒乱江戸湊(1)へ
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