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May 6, 2011
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カテゴリ:伊庭求馬無情剣

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      「騒乱江戸湊(20)

 一方の勝沼十右衛門は万八亭でお初の躰に溺れていた。行灯の淡い

灯りの下で獣のように睦みあっていた。

 お初は白い膚を染め、乳房を十右衛門にあずけ悶え狂っている。

 十右衛門の腰の突き上げで快感の喘ぎを間欠的にあげていた。

「勝沼さま、あたいはもう駄目ー」

 白い裸身をくねらせ男の烈しい腰の動きで絶頂を迎え、十右衛門ともども

同時に果てた。

「こんな気持ちになったのは初めてですよ」

 お初が快感の余韻に身をまかせ、静脈のすけた乳房を揺らし煙草盆の

煙管に火を点し手渡した。

「お初、今晩は女将は居るかの?」

 十右衛門が紫煙を吐きだし、お初の乳房を愛撫しながら訊ねた。

「居られると思いますよ」

「暫くしたら拙者が会いたいと伝えてはくれまいか」

 今晩、十右衛門は重大な決意を秘めて万八亭を訪れていたのだ。

 お初が乱れた衣装をととのえ部屋から去った。

 彼女の残り香につつまれながら、十右衛門も身形をととのえ無銘の大刀を

腰にして廊下に忍びでた。

 廊下に沿った襖越しから微かな男女の淫靡な声が洩れ聞こえる。

 彼は迷うことなく女将の部屋へとたどり着き、部屋の前に佇んだ。

「勝沼さま、遠慮なくお入り下さいな」

 艶っぽいお波の声に誘われ、十右衛門は襖を開けた。そこには相変わらず

の美貌をみせ、お波が長火鉢を前にしていた。

「いかがでした、お初は?」

「いたく気にいった」  答えつつ座布団に腰をおろした。

「なんぞ、お話があるとか?」

 お波が切れ長の眼で十右衛門を見つめた。いつ見ても背筋がぞくっとする

美貌を兼ね備えている。

「実はな、・・・女将の知りあいの武士の正体を教えてもらいたいのじゃ」

 十右衛門が和んだ眼つきを強め、ずばりと切り出した。

「何方にございます」

 お波が茶を勧め十右衛門の厳つい顔を見つめた。

「河内亭であんたと一緒にいた宗匠頭巾の武士じゃ」

「お知りになられたい訳はなんでございます」

 お波が警戒の色を浮かべ問い返した。

「お上の御用じゃ、あの晩、跡をつけたが見事に逃げられた」

「勝沼さまは、お上の御用を成すっておられますの?」

 お波が美しい三日月眉を曇らせた。

「そのようなことは詮索せずともよい。武士の正体を明かすのじゃ」

「困りましたねえ。あのお客さまは初めての方で、さね師の業が観たい

と仰せられ、わたくしがご案内をいたしました」

「嘘を申せ。あんたと男は月に何度も河内亭に現れると調べはついておる」

 十右衛門が声を荒げた。

「それは何かの間違いでございましょ」

 お波が平然とした顔でしらを切った。

「そうか間違いか。だが淫売宿を営み女の斡旋をしておることは確かじゃ。

これはお上から禁止されておる。しらを切ればやばいことになるぞ、日をおい

て再度まいる。それまでに思い出しておくことじゃ」

 十右衛門が代金をお波の膝に投げ出し、万八亭を辞して行った。

「畜生、あいつはお上の狗(いぬ)だったのかえ」

 お波が美しい顔を歪めて呟いた。美貌を誇る女だけに醜く歪んだ顔は

残忍冷酷に見える。

「女将さん、跡をつけやしょうか?」

 襖越しから低い男の声がした。

「留吉かえ、ぬかるんでないよ」  その声でふっと気配が消えうせた。

 十右衛門は膠着した状況に業を煮やし、勝負を賭けたのだ。あれだけ

威嚇すれば口を割るか、謎の武士と繋ぎを取ると思いながら帰路についた。


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Last updated  May 6, 2011 11:27:06 AM
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