長編時代小説コーナ
PR
Keyword Search
Profile
龍5777
基本的には時代小説を書いておりますが、時には思いつくままに政治、経済問題等を書く時があります。
Favorite Blog
Comments
Category
Freepage List
Calendar
< 新しい記事
新着記事一覧(全1419件)
過去の記事 >
「騒乱江戸湊(28) 「加藤、噂じゃがな裏世界に地獄の龍と名乗る殺し屋が居るらしい。 此奴は示現流の遣い手じゃそうな、先日、火盗改方の手練れが示現流で 殺られた事件があったの。一度、話を聞きに参ったらどうじゃ」 流石は臨時廻り同心だけに情報は早い。町屋六兵衛が親切に忠告した。 「そのような事件がありましたな。町屋さんの忠告です、近々、火盗改方を 訪れ話を聞いて参ります」 「そうせい、わしはこれで帰るが今回の事件は難しいぞ。なんせ日雇い人足が 犠牲者じゃ、その線から洗っても何も出まいな」 翌日、加藤貞一郎は河野権一郎の先手組の役宅を訪れた。昨日のうちに 秀次を使いにだし、訪うことを伝えておいたのだ。 役宅では主の河野権一郎と配下の、天野監物に若山豊後の三人が待ちうけ ていた。三人とも火付盗賊改方の強者らしい雰囲気を醸し出している。 加藤は半羽織の着流しで座布団に腰を据えた。この服装は町奉行所の同心 だけに許された特権である。それぞれが挨拶を交わしあった。 「加藤殿、我等は極秘任務に就いてござる。この二人がその任にあたっており ます。拙者は所要がござれば、なんなりと二人に訊ねて下れ」 そう言い残し河野権一郎が座敷をさがっていった。 「加藤殿、昨夜の人足の殺害事件の詳細をお聞きしたい」 修羅場を潜り抜けた顔つきの天野監物が興味深い顔をみせ訊ねた。 加藤貞一郎が大川で起こった事件のあらましを告げた。 「豊後、ここにも示現流の遣い手が現れよったな」 天野監物の顔が厳しくなり、若山豊後に語りかけた。 「お二人にお尋ねいたす、朋輩衆が殉職されたとお聴きいたしたが、その 下手人も示現流の遣い手とお聞きいたした。相違ございませんか?」 加藤貞一郎が興味津々とした顔をみせた。 「相違ござらん。下手人は裏世界で有名な殺し屋で橋口龍五郎と申す薩摩 藩の元藩士にござるよ」 「矢張りそうでしたか、その男は噂では地獄の龍と名乗る男にござる」 「なんと、そのようなことを町奉行所は探りだしましたか?」 「名前だけはなんとか探り出しましたが、詳細は不明にござる」 「左様か、我等は薩摩藩から下手人の似顔絵を頂きました。お帰りの折に 一枚進呈しましょう」 「それはかたじけない、お二人は何を探っておられます?」 加藤貞一郎の疑問に、天野監物が応じた。 「同じ三十俵二人扶持の身分じゃ、隠すこともござるまい。我等は闇公方と 名乗る不届き者の探索を行っております」 「なんとー、闇公方?・・・そのような不届き者が居りますのか?」 定町廻り同心の加藤貞一郎が驚いた顔で聴き返した。 「我等も半信半疑で探索を始めましたが、最初から探索していた朋輩二人が、 示現流の遣い手に命を奪われました。それはとりもなおさずその人物が居る という証しにござる」 天野監物が機密を明かした。 加藤貞一郎は半刻ほど情報を交わし、火付盗賊改方の屋敷から去った。 (暗闘) 神田明神下にある小便長屋である。縞模様の袷(あわせ)を小粋に着こなした 眼の鋭い男が、棟割長屋の九尺二間の部屋から姿を現した。 「いい天気が続くね」 と大きく欠伸をした。 三尺ほどの路地の真ん中に腐ったドブ板が敷かれている。そこを器用に 避けながら、神田の町並みへと足を向けた。 前方から十歳位の坊主が泣きながら近づいてきた。 「坊主、おめえは大工の熊んところの倅ではねえか?」 青洟をたらした坊主がうなずいた。 「どうしたえ」 「おっとうが帰ってこねえんだ」 「何時からだえ?」 「もう、三日も帰ってこねえよ」 「今晩あたり酔っぱらって帰ってくるぜ、坊主、おめえ腹が減ってるな、 これで何かを買って食べな」 小銭を握らせ足早に表通りへと向かった。 騒乱江戸湊(1)へ
騒乱江戸湊 Aug 9, 2011 コメント(198)
騒乱江戸湊 Aug 8, 2011 コメント(43)
騒乱江戸湊 Aug 6, 2011 コメント(59)
もっと見る