長編時代小説コーナ
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龍5777
基本的には時代小説を書いておりますが、時には思いつくままに政治、経済問題等を書く時があります。
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「騒乱江戸湊(30) 「お頭、臭いやすぜ。人足には何の芸もありゃせん、あるとすればせいぜい 荷物を運ぶくらいです。人に見られちゃいけねえ物を運ばせ、バッサリと殺っ たしたらどうです」 人足稼業の八助らしい考えである。 「考えられるな、大工や左官には荷物の隠し場所を作らせる。それも極秘に な、おいらの考えどうりなら、またぞろ死骸がぞろぞろ出ることになるぜ」 猪の吉が鋭く眼を光らせた、そんな猪の吉に梅吉が端正な顔を引き締め声 をかけた。 「火盗改方の動きが烈しくなっておりやす。何か事件が起こっておりやすな」 「・・・今の話は本当かえ」 「先日、あっしの店に役人が現れやしてね、左眼の細い浪人が来なかった としっこく訊ねて帰りやした」 「その役人が火盗改方かえ、それでその浪人は何者なんだ」 上田屋の八助が杯を途中で止めて訊ねた。 「兄貴、火盗改方の話では裏世界の殺し屋とか言ってましたがね」 「二人とも聞いてくんな、そいつは地獄の龍と名乗る浪人者だ」 今もって裏世界に手づるをもつ猪の吉ならではのネタであった。 「お頭、腕は確かですかえ?」 梅吉の疑問に猪の吉が簡潔に応じた。 「示現流の遣い手だよ、しかしなんで火付盗賊改方が乗り出したのかな」 三人がそれぞれの世界にとじこまり黙々と杯を干している。 「待ってくだせえよ、その時に聴いた話ですがね。最近、裏世界に大物が 台頭してきたって話しておりゃしたよ」 「梅吉、その大物とは誰だ」 上田屋の八助が厳しい声で訊ねた。 「分かりやせん。ただ賭場や岡場所の復活が激しく、その資金が裏世界から 流れているようです」 「裏世界の大物に殺し屋、大工に人足・・・賭場に岡場所かえ。それに荷物 と隠し場所か、まるで判じ物を解くような話だぜ」 猪の吉が独り言を呟き冷えた酒で咽喉を潤した。 「お頭、これらは全部繋がっておりゃせんか。先日、火盗改方の役人が殺され る事件が起こりやしたな、なんでも凄い斬り口と聴きやしたぜ」 「八助、おめえがなんでそれを知っておる?」 「あっしは人足稼業ですぜ、人足と言ってもお武家さまに中間を紹介する稼業 ですがね。戻った男がそんな話を喋っておりやしたな」 「それで分かった。火盗改方は以前から裏世界に探りを入れていたな」 「お頭、裏世界の大物が動きたした証拠かもしれやせんね」 「八助、おめえの言うとおりだ」 猪の吉が独酌しながら考え込んだ、その様子を眺め八助と梅吉が顔を見つ めあった。 昔のお頭はお勤めの前に、何時も今のように考え事をされていた。 「昔は隠れ家と獲物の隠し場所を考え、お勤めの時期を決めておられやしたな」 八助が興奮で顔を赤らめ、猪の吉に問いかけた。 「裏世界の野郎もおいらと同じ考えと言うのかえ」 猪の吉の声が強まり双眸が光った。 「それしか考えられませんよ。なあ梅吉」 「獲物の運びだしが人足で、隠し場所を作った者が大工と左官か。危ねえ 危ねえ、今頃は大工も左官も殺られているに違いねえ」 猪の吉の呟きで八助と梅吉が暗い顔で見つめあった。 「梅吉、おめえに頼みがある、命懸けの仕事になるぜ」 「なんなりと命じて下さい」 石田屋の梅吉は端正な顔に何の変化も見せずに返答した。それだけ肝が 座った証拠である。 「賭場や岡場所は、やくざ者の縄張りだ」 猪の吉の顔が往時に戻っている。 「賭場や岡場所を作るには大金が必要だ。やくざ者で急に羽振りのよくなった奴 を捜しだしてくんな、連絡場所はおいらの長屋だ」 「資金を出している奴が、裏世界の大物てえ訳ですな」 騒乱江戸湊(1)へ
騒乱江戸湊 Aug 9, 2011 コメント(198)
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騒乱江戸湊 Aug 6, 2011 コメント(59)
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