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Aug 3, 2011
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カテゴリ:伊庭求馬無情剣

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   「騒乱江戸湊(99)」

 運命の夜が訪れた。夕暮れとともに西風がときおり強まってきた。

 下谷御徒町の古屋敷では、闇公方と股肱の五十嵐次郎兵に地獄の龍の

三名が酒を酌み交わしている。

「ようやく今日という日が巡って参ったな」

 闇公方が遠くを偲ぶ眼差しで庭の片隅を見つめている。庭の植木が濃い

翳を見せている。

「長うございましたな」

 五十嵐次郎兵が往時を想いだし、低い声で呟いた。

「わしの父を腑抜けのように扱う幕府は許さぬ」

 闇公方が野太い声をあげた。

「御前、おいどん等は正義を貫いたのでごあんな」

「龍五郎、悩まんでよかとじゃ」

 闇公方が薩摩訛りで言葉を添え大杯を干した。

「薩摩は未曽有の貧困に陥った、その原因は爺さまの栄翁(重豪)公の所為

じゃ。それ故に我等は調所笑左衛門と懸命に藩の建て直しをやってきたのじゃ。

我等はこん江戸で悪事のかぎりを尽くしてきた、それで藩は立ち直ったのだ」

 闇公方の脳裡に父の斉興の顔がよぎった。貧困の苦しさを知るが故に、藩の

実権を握り、幕府の要求する斉彬に藩主の座を譲らずにきたのだ。その父を

幕府は隠居せよと強行手段で迫ってきた。それは許せぬ暴挙に思えるのだ。

「もう、こげな事はやらんでも良かとですか?」

 地獄の龍が杯を持ったまま訊ねた。

「今宵で終わりじゃ。抜け荷は天下の悪業じゃが、博打や女は庶民の憩いの

遊びだ。我等はこれに手を染め大金を得て薩摩藩は救われたのじゃ」

 闇公方が昂然と嘯き五十嵐次郎兵に声をかけた。

「次郎兵、良か風じゃ。そろそろ奥山に出向き浪人共の集まる前に武器類の

用意をいたせ。今宵こそ火の海にしてやる、父をないがしろにした罪じゃ」

「はっ、さらば身支度をいたしてまいります」

 痩身の五十嵐次郎兵が座敷を辞し、闇公方と地獄の龍が黙々と杯を口に

運んでいる。庭から吹き込む風で行灯の灯りが揺れている。

「御前、強か西風にごあんな」

「待っておった西風じゃ、こん風が江戸を焼き尽くすのじゃ」

 闇公方の言う通り、江戸の町は大川を挟んで西に向かって繁栄してきたのだ。

 東の本所、深川は最近になって繁栄してきたが、まだ未開の地でもあった。

 更に西風を幕府は勿論、諸役人も町人等も恐れをもっていた。明暦の大火も

然り、江戸の大火の歴史は西風によるものが大半であった。

 忍びやかな足音が響き、身支度を終えた五十嵐次郎兵が姿をみせた。

 彼は衣装の内側に鎖帷子を着込んでいた。

「御前、鈴木大善と堀三蔵の二人を伴います」

「軍資金の五百両も忘れずにな」

「はっ、後刻、鳳凰丸でお会いいたしましょうぞ」

 こうして五十嵐次郎兵は隠れ家から奥山の地下蔵へと出向いていった。

「三名の浪人が猪牙船で屋敷を出ました」

 見張りの岡っ引きが主水の詰める、飯屋に報告に現れた。

「とうとう動きだしたか」

 主水の眼光が炯々と輝いている。

「屋敷には闇公方を含め七名が残っておるそうにございます」

「さらば手配通り、奥山の火付盗賊改方に伝令を走らせよ」

 傍らには町奉行所の年番与力の鷹野郡兵衛と定町廻り同心の加藤貞一郎、

隠密廻り同心の佐川一郎、臨時廻り同心の菅井忠治が控えていた。

「そろそろ刻限にございます」

 嘉納主水立ち上がり夜空を仰ぎみた。七月の朧月が気だるく頭上にあるが、

黒雲が強い風に吹かれ、千切れるような速さで流れて朧月を隠している。

 厳重な身支度をした大目付の廻りに、同心や捕吏が集まった。

「良いか奴等に気取られぬように古屋敷を包囲いたせ」

 主水の下知で突棒、指股、袖搦抱えた捕吏を先頭に御用船が堀割りに

消えていった。率いるは年番与力の鷹野郡兵衛である。

 残った主水は床几に腰を据え、傍らには騎馬が繋がれている。

 全てが猪の吉の策であった。追われた闇公方一味は必ず神田川に現れる。

 鷹野郡兵衛の率いる捕吏が屋敷の周囲を包囲した。

「御用提灯に火を入れよ」

 一同が屋敷の脇の小門から足音を忍ばせ踏み込んだ。周囲は闇に覆われ

静寂が漂っている。

「江戸を騒がす闇公方なる者共、神妙に縛につけえ」

 鷹野郡兵衛の大音声が闇夜に響いた。


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Last updated  Aug 3, 2011 11:24:11 AM
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