長編時代小説コーナ
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龍5777
基本的には時代小説を書いておりますが、時には思いつくままに政治、経済問題等を書く時があります。
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「騒乱江戸湊(103)」 若山豊後も御用船を鳳凰丸の右手の舷側に横づけし、ノミを奮って船を 固定した。 益々、船上での闘いが激しさを増しているのが解る。 若山豊後を先頭に石川御用地から、出撃した船手組の手練れも一斉に従っ た。豊後が船端を越え船上に躍り込むと同時に、銃声が響き頬を銃弾が掠め た。視線を廻すと長髪を頭の後ろに束ねた、異国人と思われる髭面の男が 眼に入った。その水夫が火縄銃を逆手にし豊後に襲いかかってきた。 若山豊後は腰を低め大刀を抜き放ち、懸け声を発し大刀を一閃させた。 「あいや-」 奇妙な悲鳴をあげ水夫が仰向けに倒れた。 続々と船手組の遣い手が船端に足をかけ、船上に躍り込んでいる。 「若山さん、大丈夫か?」 「船は固定しました」 傍らに痩身の求馬が現れ、若山豊後がそれに答えた。 二人の周囲には髭面の水夫と船手組同心との激闘が、益々、激しさを増して いるが、流石に船手組の面々は武士てある。 群がる水夫を斬り伏せ斬り斃し、優勢に闘いを進めている。 そんな船上の闘いの音を聴きながら、二艘の屋形船が秘かに船首に向かって いた。それは闇公方の一味であった。 向井将監が指揮する厳重な包囲網を突破し鳳凰丸に戻ってきたのだ。 激闘のすえ船尾が占拠されたのか、南蛮砲の砲撃が止んだ。 「南蛮砲を確保しましたな」 求馬が乾いた声を豊後に送った。 若山豊後が無言で肯き、長かった闇公方一味との闘いに思いはせている。 「誰か、永代橋の番屋に南蛮砲の確保を報せよ」 「承知しました」 水主同心の一人が強盗提灯を点し、十字に大きく振った。 暫くし対岸に大篝火が真昼のように炊かれた。 「連絡がつきました」 水主同心が戻ろうとした瞬間、「チェスト-」 突然、凄まじい懸け声が 船上に響き、水主同心が血潮を噴き上げ斃れ伏した。 「何者か」 一同が見守るなかに長身の男が船首の船端に仁王立ちとなって いる姿を見た。それは地獄の龍であった。 全身から人を惑わすような殺気を噴き上げている。 「糞っ」 船手組で名の聞こえた遣い手の筱岡権兵衛が、眼にもとまらぬ袈裟斬りを 浴びせたが、地獄の龍は篠田権兵衛の大刀を苦もなく弾きかえした。 「強か剣を遣いもんな」 地獄の龍が左眼を糸のように細め、感嘆の声を発した。 船首から続々と人影が甲板にあがってきた。闇公方が真っ先に現れ、 いつ合流したのか知らぬが、五十嵐次郎兵の姿もそこにあった。 彼の後には七名の用心棒が控え、一斉に抜刀した。 「勝負じゃ」 篠田権兵衛が叫び声をあげ、正眼に構えを移した。 「殺されてもよかか、おいどんが地獄の龍ばってん」 地獄の龍が左眼を細めて嘯き、上段に構えをとった。 篠田権兵衛が正眼の構えのまま摺り足で前進し、猛然と顔面を薙ぎ 籠手を狙って討ってきた。 「チェスト-」 示現流特有の懸け声とともに、地獄の龍の長身が空中に躍りあがり、 同田貫が落石のような勢いで、篠田権兵衛の頭上に垂直に落下した。 それは示現流の太刀行きの速さで、誰も避けることの出来ないもので あった。ばっと血飛沫があがり、篠田権兵衛は死体となって甲板に転がった。 「おいが地獄の龍ばってん」 再び地獄の龍が咆哮した。 「その男は闇公方の用心棒にござる、それがしが相手をいたす。方々はそこの 闇公方一味を捕縛なされ」 乾いた声を発し求馬が痩身を晒し、ゆったりと地獄の龍の正面に制止した。 その痩身からは地獄の龍とは異なる、修羅場の臭いが漂っている。 「おはんが伊庭求馬どんか?・・・相手にとって不足なか」 「聞いたような事を喋るのは止すことじゃな」 求馬が冷やかに応じ、地獄の龍の顔つきが厳しく変貌した。 両者は三間の距離を保って対峙した。 船上は緊迫した空気につつまれ、見守る船手組同心が息を止めている。 「聴いたことはあったが、凄か剣を遣いもんな」 地獄の龍が言葉をかけ、じりっ間合いを縮めてきた。 騒乱江戸湊(1)へ
騒乱江戸湊 Aug 9, 2011 コメント(198)
騒乱江戸湊 Aug 6, 2011 コメント(59)
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