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カテゴリ:改訂 上杉景勝
[上杉景勝] ブログ村キーワード
「改訂 上杉景勝」 (101) 「石田殿に、お伝え願いたい儀がござる」 山城守が言葉を改め、左近の眸を覗き見た。 「家康という男は野戦の名人。いたずらに周囲の者に煽られ決戦を 急がれないよう、この山城が申しておったとお伝い願います」 「心得申した」 そう答えつつ左近は内心面白くない、わしも天下に聞こえた男じゃ。 その自負もあった。すかさず山城守が左近の胸中を察した。 「そこもとが付いておれば大事はないと思いますが、三成殿、いささか 逸るところがござる。こたび合戦は長引くほど、豊臣家と西軍に有利となり ます。家康幕下の諸大名共は、いずれも太閤殿下の恩顧の者。大阪城に おわす、秀頼公の存在をお忘れあるな」 山城守の言葉に左近は胸をえぐられた思いがした。主の三成は自説を 曲げず、他人を不愉快にさせることが往々としてあった。 また思い込みが激しく左近も、その対応に苦慮することが多かった。 「拙者ともあろう者が大切なことを忘れておりました」 左近が寂びた声でカラリと応じた。 福島正則などは、我が主を嫌う理由のみで家康に肩入れをしているが、 彼や加藤清正など、秀吉子飼の将は強烈なほで故殿下と秀頼を慕って いる。この事実を山城守は指摘したのだ。 「いずれ中央の地でお逢いいたすでしょうが、我が上杉家はすでに臨戦 体制となっております」 「・・・・-」 山城守の言葉に左近は首を傾けた。 「さる三月十三日は先代謙信公の二十三回忌にあたりました。その追善 法要を盛大につかまりました。その法要には領内諸城の将をこの城に 集め、義戦を起こすことを打ち明け戦略も説明してあります。 何時でも合戦の出来る体制は整っておると石田殿にお伝い下され」 「ご念のいったお言葉、その旨しっかりと主にお伝いいたします」 あとは二人のみの酒宴となり、心行くまで酒を楽しみ談論風発した。 「山城守さま、今宵は久しく戦略を論じました。この左近にとり二度と ない楽しい晩にございました。そこで最後にお聞きいたします」 「改まって何事にござる」 「合戦とは理でもっても勝てぬ場合がございます。それは運気と言うもの と思います。もし万一、こたびの合戦に敗北いたしたら如何成されます」 百戦錬磨の島左近が、赤子のような眸で山城守を凝視している。 「他家は知らず、我が上杉家は主景勝以下、家臣一同揃って討死つかま つる。これが上杉家の家法にござる」 山城守の白皙の面が乾いて見えた。 「これが山城守さまの義にございますか?」 「左様、武士たる者は爽やかに身を処すべきと考えております」 左近は数日滞在し、佐和山城に戻り会津での出来事を報告した。 「ことが敗れれば、上杉家は全滅を覚悟すると申されたか」 三成はそこに、山城守の強烈な美意識を感じとっていた。 「左近、こたびの合戦は上杉家の為にも負けられぬ一戦となったの」 「御意に」 島左近が片膝つきで応じた。 改訂上杉景勝(1)へ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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