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カテゴリ:改訂 上杉景勝
[上杉景勝] ブログ村キーワード
「改定 上杉景勝」 (113) 「山城、嘆くことはないは。津川口からは前田勢や堀勢の軍勢は侵攻を 止めておろう。それで良しとせねばな」 景勝が珍しく山城守を慰めている。 この頃、越後各地で上杉家遺臣の豪族を中心とし、各地に一揆が勃発し ていた。その支援の為の軍勢が津川口で、家康に加担する勢力によって 撃退されていたのだ。 景勝生誕の坂戸城を攻撃した、松平伊豆守は堀直寄に撃退され。 一揆勢がせっかく陥した下倉城も堀家に取り返されていたのだ。 まさに混沌とした情勢に陥っていた、それも上杉家に遺恨をもつ堀家の 奮闘にあったのだ。 「越後の地は越後の豪族に任せよう。幸いにも津川口は安泰じゃ」 景勝が浅黒い顔をすこし赤らめ、山城守の白皙の顔に視線を這わせた。 「そのようにいたしますか」 現在、上杉の抱える問題は素早い最上領の攻略と、白石方面の伊達勢の 対応のみであった。幸いにも越後の地は遺臣等の蜂起で、津川口から攻め 寄せてくる前田勢や堀勢は、足止めを食らって侵攻する気配は皆無であっ た。この機を逃さずに一気に最上勢との決着を図る。 山城守の胸に満々たる闘志が燃え上がっていた。 「山城、今宵は軍事を忘れ戦塵の疲れを癒そうではないか」 景勝が粋な計らいをみせている。 暫く二人に黙々と大杯を干していた。 「お屋形、何故に家康が軍勢を反転した時に追撃を諦めなされました」 山城守がいまだに疑問とすることを口にした。 「追撃いたせば我が家の命運を賭けた大勝負となっであろうな。あの狸爺 の事じゃ、万全な態勢で反転したであろう。そちの申す通り追撃いたせば、 あるいは勝ちを治めたやも知れぬ。が、我等も全滅の憂き目におうたかも 知れぬ。わしは賭けを止め、西上に上杉家の命運を委ねたのじゃ」 初めて山城守は主人景勝の胸の内を知ったのだ。 同時に武将としての成長をみる思いであった。 「左様な心配りを成されましたか?」 「未だに東西の合戦は始まってはおらぬ。この合戦は長びこうな」 景勝が剽悍な眼差しをみせ断言した。 「家康の狸は未だに江戸から腰を上げませぬな」 「奴は味方をした豊臣恩顧の大名に、疑念があるのじゃ」 「疑念と仰せにござるか」 山城守は、こうした問いかけを通じて景勝の成長を謀っていたのだ。 「奴に味方した諸大名どもは、福島正則の居城の清州城に集結し、何も せずに家康を待っておると聴く」 「成程、清州城の大名どもが西軍とひと戦せねば信用出来ぬと考えており ますか。狸だけに用心深い考えにございますな」 「そうじゃ、のこのこ江戸から直営軍を率い、彼等に裏切られたら、狸は 最後じゃ。それ故に彼等の動きを待っておるのじゃ」 この二人の会話は的を得ていたのだ。事実、江戸城の家康の杞憂もその 一点にあった。豊臣恩顧の諸大名の節義に疑問をもったのだ。 小山会談でも誰一人として反対する者が出なかった、それは贅沢な悩み であったが、逆に疑念が募ってくる。 武士たるものは利に疎く、義や信に重きを置くものと考えると福島正則 なんぞの、猪武者の心根の貧しさを思い知らされるのだ。 そんな者共をけしかけ天下を奪わんとする、己れの所業にも可笑しみを 感じていた。 改訂上杉景勝(1)へ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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