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Dec 2, 2012
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カテゴリ:改訂  上杉景勝
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「改定  上杉景勝」 (120)


「者共、行くぞ」

 上杉勢の先陣から、上泉泰綱が黒糸威の愛用の甲冑姿で幔幕を出た。

 三名の武者がその後に続いた。彼等は物見に出るのだ。

 四名が騎馬を駆って周囲に眼を配り、長谷堂城へと近づいている。

 既にこの辺りも冬の気配を見せ始めている、その証拠に寒風が吹き抜け

足元から寒気が這いのぼってくる。

 目前の長谷堂城には旗指物が風にあおられ、いぜんとして健在である。

「御大将、馬蹄が聞こえます」

 上泉泰綱に後続の武者が声をかけ、一行は馬をとどめ耳をそばだてた。

 確かに馬蹄の音と甲冑のすれ合う音が聞こえる。

 四名が馬から降り、小高い丘に身を潜め、眼下を見つめた。

 案の定、騎馬武者五十騎と百名ほどの足軽が城に向って行軍している。

「山形城からの増援部隊じゃ。お主は陣に戻り兵を率いて参れ、わしは

物見をいたす」

 上泉泰綱の下知で一騎が足音を消し、陣中に戻っていった。

 敵勢の先頭には大兵の武者が、兵士を督励し騎馬を急がせている。

 見るからに強者としれる。

「弓矢を貸せ」

 上泉泰綱が端正な横顔をみせ弦を引き絞った。

「御大将、無茶にござる」

 配下の武者が驚いて止めた。

「無茶は承知じゃ」

 泰綱は一兵でも長谷堂城への増援を阻止したかった。その思いを胸に

彼は弓の弦を引き絞っていたが、配下の二人は眼下の敵勢に気を奪わ

れていた。その感情は怯懦であった。

 彼等二人の思いを無視し、矢が弦を放れ先頭を行く武者の首筋に命中

した。悲鳴もあげず甲冑の音を響かせ地面に転がった。

「敵じゃ」

 最上勢の武者が一斉に丘に向って身構えている。

「仕掛けるぞ、わしの後から従ってこえ」

 上泉泰綱の言葉に二人の部下が声を失っている。

 泰綱が馬腹を蹴った。騎馬が狂ったように眼下に馳せ下ってゆく。

「敵は一人じゃ、押しつつみ首を刎ねえ」

 大兵の武者の声が聞こえ、上泉泰綱が大声で名乗りをあげた。

「上杉の先鋒大将の上泉泰綱なり、いざ見参」

「小癪な、一騎で襲ってくるとは笑止じゃ」

 敵勢の騎馬武者が十騎ほど槍を煌めかせ、迎撃態勢をとっている。

 残った救援軍は足を速め城に向っている。

 上泉泰綱の騎馬が一直線に疾走し、見る間に敵勢との距離が縮まった。

 泰綱が馬上で愛用の大刀を抜き放ち、すれ違いざまに先頭の武者の顔面

を薙いだ。血飛沫と悲鳴があげ落馬し地面に転がり落ちた。

 敵の騎馬武者が怒りの形相で襲いかかるが、泰綱は軽々と躱し、的確に

一人、また一人と血祭にあげている。

 流石は一刀流の達人だけはある凄腕を見せていた。

「強(したた)かじゃ。気をつけよ」

 血振いした上泉泰綱が再び突撃し、二人の敵が血煙をあげた。

「汝ら、なぜ加わらぬ」

 泰綱が怒りの声を浴びせたが、怖気づいた二人の配下は蒼白となって

戦いに、加わろうとする気配すら見せない。

 顔面を怒りで染めて批難した泰綱が、背中に強かな手傷を負った。

 秘かに忍び寄った足軽が槍で突いたのだ。

 振り向きざま一刀で斬り伏せた泰綱に、鉄砲足軽が銃撃を浴びせた。

 堪らず落馬したが、素早く立ち上がり大刀を構え直した時、再び猛射を

浴びせられ、上泉泰綱が大刀を杖として仁王立ちとなった。

 遥かに離れた本陣から出撃する兵士の姿が見えた。それを薄れた眼で

見た、上泉泰綱が微かに破顔した。その様子を見逃さずに二騎が猛然と

駆けより手槍が煌めいた。

 緩慢に大刀が宙を舞い、一人の騎馬武者の首が落ちた。それが最後で

あった。槍を胸に受けた泰綱が地面に膝をついている。

「首を討て」

 残った敵兵が上泉泰綱を取り囲んだ。

「おうー」

 二人の部下が悲鳴のような声をあげ駆け寄った、怒号と馬蹄が乱れとび、

必死で二人が防戦している。

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Last updated  Dec 3, 2012 10:16:18 PM
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