すぎなのたより

　　　ぼくが　ここに
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　まど・みちお

　　　　　　　　　ぼくが　ここに　いるとき
　　　　　　　　　ほかの　どんなものも
　　　　　　　　　ぼくに　かさなって
　　　　　　　　　ここに　いることは　できない

　　　　　　　　　もしも　ゾウが　ここに　いるならば
　　　　　　　　　そのゾウだけ

　　　　　　　　　マメが　いるならば
　　　　　　　　　その一つぶの　マメだけ
　　　　　　　　　しか　ここに　いることは　できない

　　　　　　　　　ああ　このちきゅうの　うえでは
　　　　　　　　　こんなに　だいじに
　　　　　　　　　まもられているのだ
　　　　　　　　　どんなものが　どんなところに
　　　　　　　　　いるときにも

　　　　　　　　　その「いること」こそが
　　　　　　　　　なににも　まして
　　　　　　　　　すばらしいこと　として

　　　　　　　　　　　　　　☆

智です。

今年の春、肺ガンが見つかり、5月から治療を始めていた父が
10月22日に心筋梗塞を併発、いったんは持ち直したものの
10月28日に亡くなりました。

春までは、本当に元気だったのが嘘のようです。
去年は、私のお見舞いにも来てくれたのでした。

去年といえば。
ずっと外猫だったのに、私の退院後しばらくのあいだ
つきっきりで見守っていてくれた猫のビビちゃんも
今年の夏くらいから、戻ってこなくなりました。

天候も、いろいろも、今年はいつも以上に
予想外のことが多いような。

誰かの場所は、その誰かがいなくなるとぽっかり空きます。
生まれ変わりがあったとしても
その姿での生はそれ1回こっきりだから
もう会うことはできません。

あ、もういないんだったと気づく
ふとした瞬間に感じる空白のさみしさは
うれしい思い出と共に、増えていきます。

一人で逝く数日前、父は手帳に
「幸せな一生でした。ありがとう」と記していました。

父がそう記した日の前日に会った私は
さよならを決定づけてしまうようで
父にありがとうとはまだいえなかったけれど。

☆

出会えてよかった。
そこにいてくれてありがとう。