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山紫水明

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2011.01.09
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062.JPG

 平成23年新春お茶席、初釜のお手前を済ませた一行は座を紅柿荘に移した。

 「皆さん、本日はヨウきてくれはりましたな。また、立派なお手前どしたえ。今年もな、精進しておくれやす。皆さんのお席に用意したモンはワテからの落とし玉や、つまらんもんやけど使うてや」

 紙包みを解いて桐の箱を開けると、紅梅の梅の柄の袱(ふくさ)がはいっている。

 師匠の挨拶が終わると上座に並んで座っていた一門の代表である県会議員の斎藤十郎が席を立って師匠の向かいに正座して弟子の礼をとり、

 「センセ、明けましてお目出とうさんにございます。旧年中は我々弟子一同にお教えを賜わり、また、本日はこうして落とし玉まで賜わりまして、重ねがさねお礼申し上げます。どうも、政治家の話は長うてイカンと文句が出ますしナ、挨拶は短く幸せは長くという諺もございますそうで、今日はセンセとお弟子さん揃って紅柿荘さんの懐石を頂かせていただきますわ。それでは、皆さん、乾杯の準備をしてな」

 目にも鮮やかな新春の懐石料理が並び、皆の顔が喜びにほころぶ。

 宴が進む中、師匠が紅柿荘の女将啓子さんを眼で招く。

 「すまんけどな、啓子さん。あそこの荒木照子さんやがな。なんや、浮かん顔して心配事がありそうや。後で話聞いて相談にのってやってんか」

 「ハイ、先生、承知しました」

 宴がお開きになって客が帰る中、荒木照子さんを見つけた女将が、

 「ねえ、照子さん。急いで帰らなくても良かったらレッドで珈琲でも飲んで行かないこと」

 「えっ、珈琲ですか。あら、嬉しいわ。女将さんに誘っていただけるなんて」

 コーヒーカップを二つ並べて照子さんの横に腰かけると、

 「先生がね、あなたの事を心配して様子をみてくれっておっしゃったのよ」

 「先生が、ですか。私みたいな新参モンのことを」

 「亭主である先生にとっては古いお弟子さんも新しいお弟子さんのあなたもみんな同じ茶席の大事なお客様なのよ。大事に想って下さっているのよ」

 照子さんはちょっと下唇を上の前歯で噛んで、

 「私、もう、お茶のお稽古をやめようかと思っているのよ。私は不器用でドン臭いし、他の奥様方やお譲さまたちのようにお金持ちでもありませんし、この世界にはいない方がいいような気がして」

 「照子さん、私達が小夜先生について習っているお茶はお金持ちの道楽としての茶道じゃないのよ。ヒト様をもてなす一期一会の心を習っているのよ。金持ちもそうじゃない人も一緒なのよ」

 「だって」

 「あなた、小夜先生の生い立ちを御存じ」

 「いえ」

 「幼くして戦争でご両親も兄弟も亡くされて、それはもうたったお一人で地を這うような苦しい人生を送ってこられたのよ。荒(すさ)んだ心で世の中を怨み憎んで生きていた時に、尼さんから点(た)てていただいたお茶を飲んだらね、心のまわりに固く貼りついていたいろんなものがバリバリと剥げて行って、涙が止まらなかったそうよ。それから、その尼さんについてお茶の修業をはじめられたそうよ。
今、自分の前にいる方を大事に思う、大事におもてなしをさせていただく、今自分が置かれた状況を有難く思って精一杯精進する、その心が大切なんだって」

 「女将さん、私、お茶ってお嫁入りのお稽古だって想っていたわ。だから、30過ぎてもお嫁に行けない私なんか習ってもしかたないと思ったし。だけど、お茶って、そういうことなの」

 「私はそう思ってやっている。そう思うとね、ナニがあっても有難いと思えるのよ。なんでも楽しくなるわ」

 カフェレッドの道路側のドアが開いて消防の法被を着たグループが入ってきた。

 「あら、今日は消防出初め式だったわね。みんな、お疲れさん」

 「照子さん、使って悪いけど、手伝ってくれない」

 「はい」

 カウンターの中に入った女将が出したグラスを照子さんはボックス席のテーブルに運んだ。

 「あら、勇ちゃんも消防団だったの」

 「ああ、副分団長だ。照子、お前出初め式を見に来なかったのか」

 「今日はお茶会だったの」

 「そうか」

 「照ちゃん、今日は勇介副分団長が指揮してカッコよかったんだぞ」

 「あら、そう、見たかったわ」

 「そうか、じゃあ、もう一回、やるべ」

 「よしっ、じゃあ、ポンプ操法始めっ」

 いきなりだったが、団員が一糸乱れぬ動きで一列応対に整列した。

 「しかしだなあ、照子、今日のお前はなんか違うなあ。垢ぬけてるぞ」

 「そお、今さっき生れ変ったばかりなんだけど」

 「そうか、じゃあ、照子、お前をオレの嫁にしてやる。有難く思えっ」

 「なによ。突然に」

 「突然じゃない。中学ンときからずっとだ。お前が横に座った時からずっと好きだった。お前が気付かなかっただけだ」

 「おっ、おーお、副分団長、カッコええどお」

 「バッカヤロー、茶化すな。オレは真面目なんだぞ」

 顔を真っ赤に赤らめた照子さんはジッと立ちつくしている。

 女将さんがカウンターの中からビールのキャリーケースを提げて出てきた。

 「ハーイ、分団員の皆さーん、こっちでビール飲みましょうね。二人の邪魔をするようなヤボはなしだよーっ」

 カウンターで女将さんが想い出石に走り書きした。

 『他人を想う心が自分を幸せにする。女将啓子から照子さんへ』 

 





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Last updated  2011.01.11 09:52:32
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