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博多の料理屋「紙屋 宗達」の一室。
福博運送グループ会長蔵元大蔵の座敷。 博多祇園山笠の喧騒がわずかに聞こえてくる。 「あんた、なんばしよおとですか」 若い芸者の胸に伸ばした客の手を鈴風が逆手に捻じり上げる。 「いてて、ナニをするんだお前、芸者のクセに」 鈴風が眉根を釣り上げ口を引き結んで客を睨みつける。 「そげんタイ。うちたちは芸者やけん、芸と粋(いき)は売るバッテン、身体は売りモンじゃなかとよ。博多ン旦那衆はみんな御座敷で遊びば覚えて一人前にならしたとよ。アンタにも御座敷の作法バ教えてやったい」 手首を捻じり上げて中腰になった客を投げ飛ばした。 「こ、この女(あま)ア」 腰をさすりながら立ちあがった男を、 「やめんか、バカもん、みたみなか」 蔵元大蔵が一喝する。 「き、君イ、バカもんとはなんだね、ボクは国土交通省の課長なんだぞ。ボクを怒らせたら、君の会社は運輸の仕事ができなくなるんだぞ、わかっているのか」 「せえからしかあ。ヨカカ。オレば怒らせたら、お前の首だけじゃなか、大臣の首の一つや二つ飛ばしてやってもよかぞ」 怒髪天を抜く不動明王のような眼で役人を睨み据える。 「伊藤、こん馬鹿モンば記者に乗せて東京に送り返せ。それから、松木大臣に電話して始末バ付けさせろ。鈴風にも詫びばいるるごつ言うとけ」 秘書の伊藤が役人を引き連れて行くのを見届けて腰を下ろすと、 「鈴風姐さん、梅弥、今日は済まなかった、勘弁してくれ」 「なにをおっしゃいます、会長。うちのほうこそ、会長のお座敷バぶち壊しにしてしもうて申し訳のなかです」 「ヨカ、そっでこそ博多芸者て言うもんタイ。バッテン、鈴風が怒った時は一段ときれいかバイ」 「あら、会長さん、うちば口説(くど)いてくれよんなはるとですか、嬉しかあ」 「おう、俺がもうちょっと若くて元気がよかなら本気で口説とばってんなあ」 「うちが若返らせてお元気にしてやりますけん、サア、お一つどおぞ」 初夏の博多の夜が次第に更けていった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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