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ないものねだり

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2012.06.04
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テーマ:ココロ(1186)
カテゴリ:独りの時間


それは、阪神淡路大震災から3年経った、1998年の梅雨の夜だった...


ポートタワー

(神戸ポートタワー 砂浮琴撮影)

地震で、神戸の街並みは失われ、代わりに真新しいビルが建っていた。
街の外観は、確かに急ピッチで輝きを取り戻しつつあったけど、
一方で、人の暮らしなんて簡単に元通りにはならなかった。


命を落とした友人も多かったけど、残った連中も神戸で職に就けず、
多くは諦めて次々と神戸を離れて行った。
自分自身も、バイトで食い繋いで職を求めて京阪神を転々とした。
悲観して自殺する友人が増えていた。


ポートタワーは、地震から間もない2月14日に照明を再開した。
"復興に立ち上がる神戸市民の希望の灯に"という願いが込められていた。
1ヶ月間、暗闇だったベイエリアにタワーが浮かび上がったのが嬉しかった。


以来、中突堤でポートタワーを見上げるのが心の慰めになっていた。


あの夜も、中突堤の鉄製のビットに腰掛けて缶コーヒーを口にしながら、
タワーを見上げて考え事をしていた。


携帯電話が鳴ったけど、出る前に切れてしまった。
世話になった、先輩からの着信だった。
いつも心配して、気遣って電話してくれる先輩だった。
掛け直したけど、先輩は出なかった。


街灯り


何本目かの煙草に火を点けたとき、また電話が鳴ったが今度は出なかった。
あの夜、郵便受けの支払の督促状を目にして気持ちが荒んでいた。


地震から3年余り...
ポートタワー、ハーバーランドの観覧車、波に揺らめくネオン...
明るさを取り戻しつつある夜景を、一人で眺めるうちに気弱になって、
誰かと会話する気になれなかったんだ。


ぼんやりしていると、今度は先輩からメール着信があった。
「俺も一人やから、飯でも一緒にと思いついてな。苦労してるみたいやな。」
「ドアに差し入れかけといたで。またな。」と。
メール着信は、午前01:45だった。


そのあと、もう一度メールが入ったけど開かないままにした。
着信は午前03:03だった...


次の日の夜、バイトを終えて先輩のマンションに立ち寄ったけど、
留守だったようで、ドアノブに缶ビールを2本ぶら下げて帰った。


その翌日、先輩の姪から連絡をもらい、先輩が亡くなったと聞かされた。
あの夜、砂のアパートへ出掛けた帰りに大型ダンプの後輪に巻き込まれて、
ほぼ即死だったそうだ。


事故は午前02:30頃だそうで、搬送先の病院で死亡が確認されたのが、
午前03:00だったそうだ。


   南京町


後で知ったことだけど、会社再建のためのリストラの名目で、
その先輩もとっくに勤め先を解雇されていたそうだ。


先輩の姪と一緒に、最後の着信メールを確認した。
「俺、色々あってもうあかんけど、お前頑張れよ。」という内容だった...


葬儀の夜も、何故か中突堤に足が向いた。
メールを何度も見返して泣けた...


時間経過で考えれば、あのメールの着信時間は不可思議だ。
先輩が亡くなったあとで、送信されたことになる。


だけど、誰もが自分の事で精一杯だった当時を思い出すと、
後輩を案じてくれた想いだけで、今さらながら心に沁みる。



もう直ぐ先輩の命日だけど、何処でどのように弔われたかも判らない。
ただ毎年、胸の奥で感謝しながら影盃を捧げるのみだ...













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Last updated  2012.06.04 22:23:17
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