まぶだちデビッドとの出会い
もう7~8年前のことになるかもしれない。夫婦でハイキングにハマっていた。その少し前までは夫婦二人でオートキャンプにハマっていた。人が少ないキャンプ場でのんびり静かにすごして、食事をし、大地の上で眠る。楽しく、癒され、風邪を引かなくなった。しかし、なぜかブームになってしまって人が増え、キャンプ場にいるというよりアパートにいるみたいになってしまった。近くというか隣のテントからの話し声がうるさい。私たちのオートキャンプは終わった。数ヶ月アウトドアから離れると、なんだか気持ちが悪くなる。冬だったがハイキングを始めた。とりあえず近場の丹沢や箱根の外輪山など1,000~1,500mの山へ週末ごとに登るようになった。半年ほど続けると、もっと高い山に登りたくなった。9月に夏休みをとって北アルプスの穂高へ行った。バックパックで上高地の梓川の川原にある小梨平というキャンプ場でベースキャンプ。前穂高から奥穂高を縦走。ハイキング開始から半年で二人だけで3,000mの山に登るという暴挙だった。しかし、穂高の頂上からの眺めは忘れられない。自分の足で来た者にしかわからない感動を覚えてしまった。次の年も9月の夏休みに、同じように上高地のベースキャンプから憧れの槍ヶ岳へ行った。上高地からしばらく歩いた頃、すごく小さい頼りなげな吊り橋があり、「一人ずつ渡れ」と書いてある。後ろから外人が二人近づいてくるので、二人で心配そうに顔を見合わせた。するとその一人が「ひとりずつわたるのか」と言った。よかった!またしばらく行くと、その外人に日本語で「槍沢ロッジは遠い?」と道を聞かれた。私たちも初めてで良くわからないが地図を出して説明した。私たちもそこへ泊まる予定だった。その槍沢ロッジで彼らに再会して一緒にコーヒーを飲みながら雑談した。デビッドとテリーとの出会いだった。デビッドは日本で記者をしていて、テリーはアメリカで大学教授だという。テリーはデビッドの高校の先生だったそうだ。翌朝、一緒にスタートしたがルートが違ったので、途中で別れた。頂上の少し手前にある槍ヶ岳山荘というところで二人が待っていてくれた。そこから頂上までは、まるでロッククライミングのようなルートで楽しかった。4人で頂上に立って最高の気分を味わった。そのあとそれぞれ行き先が違うので別れたが、偶然3日後に上高地のキャンプ場で再会した。去年行った穂高が良かったという話をすると、彼らは行きたがって質問攻めに会った。彼らは翌日穂高へ行くことに決まり、私たちは帰る。翌朝、別れる直前にデビッドがキャンプ用器具でエスプレッソをご馳走してくれた。目の前を梓川の清流とその向こうに見える穂高岳を眺めながらのエスプレッソは美味かった。状況や心境は味覚に大きく影響する。飲みながら「結婚っていいものか?」と聞いてきた。「俺はいいものだと思っている」と答えた。今結婚を考えている人がいるということだった。明神池というところまで見送って、メールアドレスを交換して分かれた。帰り道、中央線の八王子で乗り換えるとき、穂高へ行ったはずのデビッドをみつけた。足のけがであきらめて帰ってきたそうだ。なぜだかよく偶然に会うのが不思議だった。つづく