カテゴリ:浦嶋プロジェクト
浦嶋の爺 むかし、むかしのことじゃった。 白浜の広がる海辺の村に 白髪の老人がヨロヨロしながら歩いてきた。 やがて爺さん、力尽きて倒れてしまった。 偶然通りかかった村人が、倒れている爺さんに気付き慌ててそばにかけよった。 大丈夫か爺さん! 何か… 何か食べるものを… 村人は、急いで家に戻り、朝ご飯に用意しておいたおむすびを籠に詰めると爺さんの元へ走った。 有り難う有り難う なんと御礼をしたら良いのじゃろう そうだ御礼といっては何ですが、踊りを踊りましょう! タイやヒラメが舞い踊る〜 爺さんの突然の行動に村人は目をむいて驚いた。 爺さんの見たこともない唄と踊りに目をまん丸にして大笑いした。 いつのまにか、たくさんの村人が集まり周囲は笑いに包まれた。 踊りが終わると通りがかりの商人がお爺さんの前に現れた。 あなたの唄と踊りはとても珍しく、大変面白い 私の家は隣村だが、これから宴会があるので、是非そこで踊って欲しい ワシの踊りでよろしければ、どこ、でも、踊りますよ ところで爺さん、名前はなんと申す? はたと考える爺さん。自分の名前も家も思い出すことが出来なかった。 商人は、爺さんをヒョイっとおんぶすると、タッタッタと軽快に走り出した。いくつもの橋を渡り、広大な田畑を駆け抜け、商人の家にたどり着いた。爺さんはその家の大きさに大変驚いた。 宴会場には、たくさんのお役人が集まり、それは豪華な食事とお酒が振る舞われ、大変な賑わいだった。 爺さんが舞台に上がり踊り出すと、宴会場は更に大きな歓声が上がった。 タイやヒラメが舞い踊る〜 それを隙間から覗いていた丁稚の少年は、爺さんの踊りを見ると大きな口を開け、目をまん丸にした。 こ、ここれは・・・! そして商人がお役人に金色に輝く小判を渡しているところを見て、更に驚いた。 翌朝、爺さんは、商人に起こされ目が覚めた。 ワシャ、これ以上、飲めも食べもできないよ 何を寝ぼけているのですか 朝ですよ 昨夜は大変楽しかった。有り難う 爺さん住む家もなかろう。よかったらこの家に住まないか?その代わりと言っては何だが、宴会で踊ってくれると嬉しい それから、爺さんは毎夜毎夜開かれる大宴会で、唄い踊りを舞った。3日、4日と初めのうちは大歓声を受けていた爺さんの舞いも、7日も経つと次第に飽きられてきた。 爺さん、もっとほかにはないのか? ヤジが飛んだ 爺さん、爺さん、こっちに来なさい 商人は爺さんを呼びつけこう言った 連夜の宴会で疲れたろう、今夜はもう踊らなくてよい、飲みなさい、飲みなさい、大いに飲みなさい、そして今日は爺さんが楽しみなさい 爺さんは、大きな器に注がれたお酒をひと息に飲み干した 酔っ払った爺さん 大きな声で叫び出した 毎日毎日、こんな豪華な食事とお酒で、たいそうお店が儲かってるみたいですね! 大判小判もざっくざくですしね!わっはっはあ それを聞いた商人 額から汗が噴き出した。 お役人たちの眉毛は釣り上がり、商人を睨みつけた。 これはまずいな・・・ 商人は、大きな器に酒を注ぐと、次から次へと爺さんに飲ませ始めた。 そして…。 酔っ払った爺さんは、ゴロリと寝てしまった。 商人は、丁稚の部屋へ行き、寝ていた丁稚を起こすとこう言った。 今から、お得意様のところへ単物を届けてきてくれないか い、今からですか?! もう日が暮れて真っ暗でございます お得意様は、急いでおられる 荷物は荷車に用意してある よいか、単物を届けたら、その帰りに浦嶋崖に立ち寄って、出来の悪い単物を崖から落としてきてくれ 出来の悪い単物が、間違って世間様に出回ったら店の恥になる よいか、確実に崖から落として、落ちたことを確認するんだよ 丁稚は、大急ぎでお得意様のところへ単物を届けた。 浦嶋崖に着くと、雲の隙間から月が顔を出していた。 丁稚は、出来の悪い単物を荷台から下ろそうとした。その瞬間、うううーと、 うめき声が聞こえた。 ひぇぇ、単物がうめいたぁ 出来の悪い単物は、さらにくねくね動き出し荷車から転げ落ち、出来の悪い単物を包んでいた風呂敷の中から、縄に縛られた爺さんが、転げ出た。 あっ、お爺さん… 丁稚の顔は、見る見る崩れ出し、目から大きな涙がボロボロとこぼれ落ちた。 そして、大きな声で泣き叫んだ。 あぁお爺さん、あぁお爺さん みんなみんな、僕のせいです。お爺さんを二度も殺してしまうところでした どうか、どうか許してください 丁稚は、爺さんを縛る縄を解き、爺さんの手を自分の頭に乗せて、こう言った。 あなたを、竜宮城にお連れしなかったら、お爺さんになることも、記憶を無くすことも、商人にいいように使われて捨てられることもありませんでした もう一度、あの時に戻って、早くご両親の元へご報告して来てください 乙姫様はあなたの帰りを待っています 次の瞬間、モクモクと白い煙が立ち登り、煙の中から若返った爺さんが現れた。 あぁ、あぁ、元の姿に戻ったぞ 思い出した思い出した、みんな思い出したぞぉぉ 歓喜をあげて震えあがる若者の足元には、亀の甲羅が落ちていた。 丁稚よ、あのときの亀だったのだな、何を謝る必要がある、お前のおかげで、乙姫様に出会えた、お前のおかげで、竜宮の舞いを覚えた、かけがえのない想いをお前が与えてくれたのだ ただただそれに、わたしは甘えていたのだ 若者は、亀の甲羅を抱きしめて泣いた。そして、思い立ったように立ち上がり、亀の甲羅を頭にかぶると、荷車を引き行きよいよく走り出した。 おしまい でもつづく 初版:2020年10月9日 改定:2020年12月11日
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最終更新日
2021.02.28 22:27:23
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