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カテゴリ:好きな文章
夜道を歩いていたら、植え込みで『チン、チン』と鳴いている。 今年初めて聞くカネタタキだ。コオロギの仲間で、鉦をたたくように鳴く。 立ち止まって耳を澄ますと、別の葉陰からもチン、チン…。秋が耳の奥へ広がっていく。
12月を音のイメージで表した『音の歳時記』と言う詩が、那珂太郎さんにある。 一月は『しいん』。厳冬に天地は静まる。 二月は『ぴしり』。春が兆して氷が割れる。 三月の『たふたふ』は雪どけの川。詩人の感性は、さすがにみずみずしい 四月は『ひらひら』。野を越えて蝶が飛ぶ。 五月は『さわさわ』と風がわたる。 六月『しとしと』。七月の『ぎよぎよ』は蛙の合唱だ。 そして八月の『かなかなかな』から、九月は『りりりりり』。 音の呼び覚ます季節感も趣は深い その詩さながらに、東京ではここ数日で、樹上の吹奏楽から草むらの弦楽に楽団が変わった。カネタタキはささやかな打楽器か。 虫の声の移ろいは、太陽の季節から『もののあわれ』の季節への、舞台の巡りを人に教える。 昔は、虫の声にも『聞きなし』があった。リーリーと鳴くコオロギの声を『糸刺せ、針刺せ、つづれ刺せ』と聞いたそうだ。 冬着の繕いを急がせる声だという。夜が静かだった頃の炉辺の想像である。 那珂さんの詩は、十月『かさこそ』、十一月は『さくさく』と続く。落ち葉と、霜の朝である。 十二月は『しんしん』。雪が降って、時の逝く音だそうだ。 心を澄ませば聞こえるかもしれない。日々の喧噪から、時には心身を解き放つのも良い。
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最終更新日
2009年09月05日 10時59分12秒
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