日生劇場トスカDay1
Photo AlbumPhoto credit : Shevaibra, courtesy of the artistNISSAY OPERA 2019G.プッチーニ作曲 オペラ『トスカ』 全3幕(原語[イタリア語]上演・日本語字幕)台本:ルイージ・イッリカ&ジュゼッペ・ジャコーザ作曲:ジャコモ・プッチーニ2019年11月9日(土)日生劇場指揮:園田 隆一郎演出:粟國 淳管弦楽:読売日本交響楽団【キャスト】11月9日(土)トスカ 砂川 涼子カヴァラドッシ 工藤 和真スカルピア 黒田 博アンジェロッティ デニス・ビシュニャ堂守 晴 雅彦スポレッタ 工藤 翔陽シャッローネ 金子 慧一看守 氷見 健一郎(両日)***日生劇場トスカDay1done読響と牽引するマエストロ園田がすばらしかった。マエストロが飛び跳ねるようにリズミカルに楽しく指揮していてずっとオケピを見ていたくなるほどだった。マエストロはプッチーニがそう意図したように、全体を途切れない一つの音楽として演奏した。これは簡単なようで難しいことだ。歌手が海外の大スターだったりするとファンが拍手したがるからだ。そこをマエストロがご自分の意思を貫いたのが最も印象に残った。♪歌に生き、恋に生き ですら切らなかったのだ。歌手もそれを理解して演じた。会場で見ていらしたマエストロ沼尻はどう思われたことでしょう?沼尻さんも新国立劇場でトスカを振っているのでそのへんはご苦労がおありかと。園田氏は歌いながら指揮をしている場面もあり、シンガーズコンダクターでパッパーノにやっぱり感じが似ているなと思った。豪華で美しい粟国演出予算使っていろいろ藤沢のトスカとは違う部分もあった。もちろん同じ部分もあって粟国演出トスカはここ数年で3作品めだが、ステージが狭く舞台機構も何もないもっともオペラ演出にはしんどい日生劇場で工夫して粟国ワールドを作っていたかもその肝はノルマの時と同じ回り舞台だ。ゼッフィレッリと同じくステージ全体に紗幕を張り、昔の時代を思わせるソフトフォーカスになるようにしている。まるでヨーロッパの美術館に迷い込んだような感覚にとらわれる昔の絵画のような美しい世界。トスカのブルーのドレスが美しい。藤沢のトスカのブルーのドレスと似ているというか同じものかな?あの時の写真を今でも職場のPCのトップ画面に貼っている。歌い終わって破顔した美女歌姫の笑顔が忘れられない。全身全霊でトスカになりきって歌った。まさに絶唱だった。今回相手役が新人なので自分がリードしなくてはという気の張りもあったことでしょう。悪役スカルピアの黒田博さんとの果たし合いのような第2幕が超最高だった!黒田博さんの演技といったらもう市村正親にしか見えない!もう俳優!詳細後述いたします。カヴァラドッシで日生劇場主役でデビュー?の工藤さんは、大変な美声の持ち主。少し前のヨナスカウフマンのようなリリコスピント。第1幕は緊張していたようだが次第に持ち味発揮。脇もすばらしい。シャッローネの金子慧一さんすばらしいお声ノーブルで凛としていて美声のバス。演技も生真面目な軍人を貫いてて良かった。所作が軍人だった。笑わない終始むすっとしている役だがさすがにカーテンコールで笑顔が出ていた。そしてスポレッタの工藤 翔陽さん。甘くパワフルなリリック・テノールで活き活きと演じた。アンジェロッティ デニス・ビシュニャはウクライナ人だけあって背が高くやはりこのトスカの世界になじんでいた。声も立派で美しくもしっかりしたバス声堂守の晴 雅彦さんは今までも何度も拝見しているが絶品です。演技もとても細かいです。彼も役になりきって舞台上で生きることができる人です。看守の氷見 健一郎さんも立派なバス声でどことなくユーモラスな雰囲気もかもし出すことが出来る芸達者な人です。***どかーーーんと気持ちよく振り出すマエストロ園田サンタンドレア教会内部しもてに出入り口聖水盤がマリア像のしもてにむむ、カヴァラドッシの画家の足場がないいったいどこに?舞台が狭いので演出家は逆転ホームラン的コペルニクス的転回を考えたのです。それはあとでのお楽しみ。La pila... la colonnaデニスは当たり前ながら西洋人なので美しく様になってる。聖具保管係いつのまにかカヴァラドッシが背後にChe fai?はっとするほどのセクシーな美声。Dammi i colori!堂守は二種類の絵の具を出してカヴァラドッシが選ぶ。カヴァラドッシが歩いていくとなんと舞台が回りだす。回り舞台はかみて側だけ。そこに現れたのはカヴァラドッシの描きかけの絵と足場なるほどね!しかも細かいのですさまざまな下絵が足場の下に置いてあるアッタヴァンティの顔のデッサンがあるのです。これは後の伏線ともなるのです。こういう細かい演出が本物ぽいのが粟國演出です。ほとんど重要な場面がかみてで展開されますが私は運悪くかみての張り出したバルコニーの最右翼席だったのです。かみては20~30%は見えない席でした。マエストロがよく見えたのが救いでしたが。Recondita armoniail mio solo pensiero, Tosca, sei tu!音楽は途切れずに続きます。ここは本当に堂守とのやり取りになっているので音楽的には切れないのです。ここで拍手を入れさせる指揮者は忸怩たる思いがそこにあるのです。歌手が上か、指揮者が上か?アリアオペラの至上命題、力学で決まってくるのです。堂守がいなくなる。扉の前にカヴァラドッシが立っているとかみてからアンジェロッティが出てくる。いきなり話しかけられてとまどう身構えるカヴァラドッシ手にはバスケットを持っているアンジェロッティは嘆くしかしカヴァラドッシは気づくマリオ!隠れようとしてアンジェロッティは空腹のため倒れる食べ物を与える扉の前でSon qui!舞台の長さがないのでそうなる。入ってきたトスカはアイドルのように可愛く美しい女性オレンジ色のドレスを下の別の色のドレスの上に重ねていて表情は別の女を捜すような疑り深い表情です。ここでわかるようにトスカは気が強い気丈な女性です。欲しいものを得るためには遠慮しない自分の美しさと才能に裏打ちされている自信と貪欲さがあるのですそういった多少の高慢さも持っている歌姫そんな彼女がスカルピアによって破壊されていくこの変化を砂川さんは見事に演じました。じゃ仕事だからVado!行くわよ!舞台が回りだしカヴァラドッシの絵が現れます。その下にあったデッサン手に取るトスカこれは!アッタヴァンティご明察だね名家の貴族自分はなりあがりの歌手そういう手に入れられないものに女は嫉妬するものです私を誰だと!ばかだなQuale occhio al mondoカヴァラドッシの口説きに機嫌を直すトスカsempre "t'amo!" ti dirò!Ma falle gli occhi neri!自信たっぷりに命令するトスカきらきら瞳で自信たっぷりに出て行くトスカアンジェロッティが出てくる。カヴァラドッシはドアを開けて誰もいないか確かめる。La vita mi costasse, vi salverò!costasseの高音、見事です!堂守と聖歌隊たちが出てくるバーンとしもてのドアが開いて現れるスカルピアだUn tal baccano in chiesa! Bel rispetto!極悪メイクの黒田博さん白い貴族のかつらをかぶって美しい衣裳堂守は震え上がっていますまた舞台が回りスカルピアは礼拝堂に続く絵画の前へ下に落ちている扇子藤沢のオペラの時、ここではスカルピアが出てくるまで低音を鳴らし続けていたマエストロ今回はスカルピアがそこに板付きなので低音の伸ばしは短くてすみます。スポレッタが絵の覆いを開けるここで初めて気づくという演出でさすが細かい。Lui!堂守の芝居は今回は今までより意識してコミカルな部分をなくしているように見えたが堂守も生き延びるために戦っている(トスカが来ました)とスカルピアに耳打ちするスポレッタマリオ消えちゃいましたよ堂守も奥へ消える聖水を渡すスカルピアトスカは受け取り十字を切る舞台が回り、スカルピアはなにげなくトスカをあの絵画の前に誘導する扇子を見せる激しく嫉妬するトスカGiuro!驚いたように振り返り教会の中ですぞ泣き崩れるトスカスカルピアはにやりとする。スカルピアは笑いながら彼女に近づき、一転殊勝そうに手をとり立ち上がらせるトスカは泣きながらスカルピアの胸にすがりつくスカルピアはこの瞬間この女を手に入れたいと誓ったに違いないトスカを出口まで送るトスカは紳士然としたスカルピアに何の疑念も抱けるはずがない脱兎のように飛び出していくスポレッタともう一人。Va, Tosca!Ah di quegli occhivittoriosi veder la fiammaillanguidir con spasimo d'amorまさにそれを砂川さんは演じた!L'uno al capestro,l'altra fra le mie bracciaTosca, mi fai dimenticare Iddio!スカルピアは他の人々と同じく、ぬかずき礼拝する。もちろん神を冒涜するような演技はいっさいなし。第2幕ファルネーゼ宮スカルピアの執務室しもてにデスクそのしもてに入り口デスクの後ろには大きなイタリア半島の地図のタペストリー?がかかっているが最初からそうなっていたかは記憶があいまいだ。かみて側には赤いソファとダイニングテーブルしもてのデスクの裏は拷問部屋になっていてその出入り口がついている幕が開くとスカルピアはおつきの者に自分の身支度をさせている瞬間。こういうとこ粟国さん細かい演出!シャルローネ登場金子 慧一さんの美しい立ち姿と美声。窓を開けろと言い侍従が開けるシャルローネは開けないそういうとこもリアル演出。スカルピアの身の回りを世話するのは侍従でスカルピアは軍人で部下。スポレッタは間諜であるスカルピアがO meglioとしゃべると出て行きかけたシャルローネが戻ってくる手紙を渡すシャルローネは軍人のようにしゃきしゃきした動作で手紙をぱっとかざすがそのまますぐに出て行く。スポレッタが来るその…いませんでした。ここでひそかに弱音を吐くスポレッタスポレッタも等身大の人間として描かれている。血も涙もない人間としては描かれていない。スカルピアは激怒するスカルピアはスポレッタのような卑しい人間をはっきり差別しているスポレッタを追い出そうとするシャルローネこのままでは自分の身が危ないと画家を連れてきました。スカルピアはスポレッタの服をなぜてほこりを払うしぐさまあいいだろう後ろ暗い仕事をしているやばいやつらが入ってくるカヴァラドッシ乱暴だな知ってのことと思うがトスカが歌ってる!繰り返すスカルピアご存知でしょうが囚人が脱走しましてね知らないかくまっているんでしょう?知らんdov'è dunque Angelotti?どこなんだ!怒鳴るスカルピア本性を表すトスカが来る目が覚めるようなブルーのドレス拷問室に連行されるカヴァラドッシここからの心理劇がすごいです。本当に映画みたい!でした。トスカは拷問が行われていることを知るSogghigno di demone演出的にもびっくりなことが!やめて!Tutto?カヴァラドッシと話して気丈さが戻るトスカNon so nulla!ロベルティ再開しろやめて!殺す気なの?Più forte! Più forte!Ah! Più non posso!あいつを黙らせろChe v'ho fatto in vita mia?祈るようなスポレッタの声カヴァラドッシの悲鳴が井戸の中よ 庭の。アンジェロッティか?(ためらってから、小さく)Siカヴァラドッシが連れてこられ投げ出される飛びつくトスカ君かしゃべってないなええ庭の井戸だ、行けスポレッタ猟犬のように走っていくスポレッタ。シャルローネが自軍の敗走の報せを告げるマレンゴの戦いでナポレオンが勝利したのだ演出的にもびっくりなことが!Vittoria! Vittoria!すばらしい!スカルピアの怒りを逆なでする行動をやめさせようとするトスカをマリオは激しく突き飛ばす。マリオは死刑囚として収監されるスカルピアはかみてのダイニングに誘い酒を勧める。トスカ、冷たい口調でおいくらなの?(怒りながら振り向く)お値段は。Già mi struggeal'amor della diva!Ah! In quell'istantet'ho giurata mia!Ah!Vile!襲い掛かってきたスカルピアの頬をひっかくトスカMia!小太鼓の連打死刑の準備スカルピアは後ろを向いているVissi d'arte, vissi d'amoreperché me ne rimuneri così?独白のような心の叫びの表出拍手を入れさせまじ、とマエストロがすぐに続けるマエストロの意思を感じ取った聴衆はおとなしく聴いているトスカは降参するスカルピアにひざまずいて慈悲を請うたのだ。トスカはここで人格が崩壊し別人になっているSei troppo bella, Tosca二重人格のスカルピアはそんな彼女に同情するように見せかけて優しく立ち上がらせ譲歩しましょう許すのかと思いきや!トスカに激しく抱きつくこの豹変が怖ろしすぎる黒田スカルピアやめて!ドンドンドン身を引き剥がすトスカアンジェロッティは自殺しました。間の悪いにもほどがあるスポレッタスポレッタがこの時入ってこなかったらスカルピアは死ななかったスカルピアはトスカにEbbene?大きくうなずくトスカスポレッタ出ていく善人のような笑みを浮かべてIo tenni la promessaまだよスカルピアが通行証を書いている間、トスカはソファに身を投げて気を静めるそこで目に入ってきたのが…トスカは右手でナイフを握り締め体の前に両手で持ち書き終えたスカルピアが来るのを見てさっと右手を後ろ手にして隠すfinalmente mia!トスカは心臓の上辺りにナイフを突き立てるQuesto è il bacio di Tosca!aiuto!Muori dannato! Muori, Muori!最後のMuori!は地声最期の息を吐いてスカルピアが絶命する通行証を握り締めE avanti a lui燭台と十字架出て行くトスカしもての扉の閉まるまで光が当たって姿が見えているかっこいい~!第3幕ここでは粟國さんはMETでルチアを演出したメアリー・ジマーマンがやったようにわざと舞台を狭く使うというのをやってます。粟國さんの頭の中は映画の場面のようにきっちりリアルにその場面の大きさで演じるべきとも思っているのか。サンタンジェロ城の屋上皆殺しの天使の像はなく(私の位置から見えなかっただけかも)歩哨たちが居眠りしたり談笑している未明の弛緩した雰囲気が伝わってきます大きな塀があり威圧感があります。黒い緞帳がなぜかすーと下に25%ぐらい下りてきて止まります。Io de' sospiri兵士たちは牧童をテーブルの上に乗せて歌わせます。美声の子供やっぱり子役にこだわるところもさすが粟國さんです。子供は歌い終わると兵士たちに褒められますがお駄賃ちょうだいと手を差し出します。まさに現金です。兵士たちはなけなしの給金から出し合います。やがて音楽が変わりカヴァラドッシの示導動機w 星は光ぬのメロディが奏でられます暗い狭い部屋の中にカヴァラドッシがいます。Mario Cavaradossi?牢番は入ってくるとカンテラでカヴァラドッシの顔を照らして本人か確かめます。ここがわざと狭い部屋(またもやかみてがわ!)にしている部分で黒いカーテンでしもてをさえぎり、暗闇の中かみてがわの部屋だけが浮かび上がるようにしています。確かに新国立劇場のように巨大なせり上がり装置があるわけでもない日生劇場ではあえて窮屈に部屋を再現して見せたところもリアル演出にこだわる粟國さんです。カヴァラドッシは自分の指輪を渡して手紙を書かせてもらいます。ここでにやっと薄く笑って紙なら「あるよ!」と見せた牢番の氷見 健一郎さんの演技秀逸です。言葉がなくても思いが伝わってくる演技です。指輪のやり取りは私の位置から見えませんでしたがカヴァラドッシは手紙を書かせてもらう代償として指輪を牢番にあげたのに心底カヴァラドッシに同情している牢番は…ここは要注目です。藤沢市民オペラのトスカで二回も見ているのでそこの演出はやはり今回も取り入れていましたね。粟國さんオリジナルです。拷問のシーンでスカルピアが合図して叫ぶというのはさすがに位置的にリアルでないので今回はやめたようです。今回のような写実的な演出のオペラはぜひ収録して入門版として広く世間の人に見てもらいたいですね!E lucevan le stelleE muoio disperato!E non ho amato mai tanto la vita!ここも拍手を許さないマエストロここまでくるとMUTIより厳しい(笑)重苦しい音楽から一転、音楽が変わってトスカが会いに来ます。トスカは同じ服。着替えてません。ここもリアルな粟國さん流です。不気味なスポレッタは帽子をとって慇懃にあいさつしてから去りますこれはスポレッタの基本動作でよくやってました。貴婦人への礼儀として染み付いているのでしょう。そういう人物の描き方も粟國さん流。動作を見ただけでこれは○○と役がわかるほどです。そういう演出が彼ら歌手の個性にぴったり合っているから驚きです。O dolci maniトスカは倒れるときの演技を指示します。Trionfal, di nova speme看守の声L'ora!うまくやってねCome la Tosca in teatro笑わないのよCosì?真剣な顔で見つめるトスカ。兵隊が整列している牢番はトスカに○○しようとします。しかしスポレッタが○○隊長の合図でカヴァラドッシは倒れます隊長はカヴァラドッシに近づき、苦しまないようにとどめをさそうと短銃を向けますがカヴァラドッシは死んでいるとわかり、撃ちません。牢番は死体に布をかけます。喜色満面のスポレッタはトスカに慇懃にお辞儀すると去っていきますトスカはようやく人がいなくなったので駆け寄りますがマリオ!マリオ!死んでる!シャルローネがスカルピアにカヴァラドッシの銃殺を報告しに行ったためかスカルピアが殺されているのが発覚します。追いつめられたトスカはO Scarpia, avanti a Dio!下を覗き込むスポレッタ帽子をとって見ています。この下を覗き込む動作によりずいぶん高い位置から落ちたんだなと観客に実感できます。大事なところです。全幕了カーテンコール、マエストロがヴァイオリン?を弾くまねをしてオケをたたえ、チェロを弾くまねをしてチェロを讃える。王道演出でありながら細かい粟國さんのこだわり演出でリアルに悲劇を実感できました。お疲れさまでした。