水木しげる『なまけものになりたい』
せちがらい高度資本主義の世の中。働きすぎるとすぐに生存本能が薄れてしまう私のような弱気ななまけものにとって、水木しげる先生はたのもしい同類であり大先輩なのである。こういうくだりを読むと、うれしさのあまり電車の中で小躍りしてしまいたくなる。どうしたわけか、ぼくは生まれつき寝るのが大好きだった。・・・要するに眠りこけてなんとなく生きたふりしているのが好きだった。若き日のぼくはそれを人生の方針としていた。しかし水木先生と私の間には大きなへだたりが。水木先生は物欲をいましめておられる。私はなんだかんだで物欲はある方だ。それにしても、これではあれが欲しい、これが欲しいの”欲しい欲しい”で毎日を追われ、そのうち一生が終わってしまうのではないだろうか。 日本がいい例で、学校の成績がよくないと、将来いい会社に入れないという恐怖心で、幼稚園の頃から、追われる生活を続け"生"を味わうことなく、あわてふためいている。・・・おっしゃるとおりです。なまけものの道は一日にしてならず。この消費社会の世の中で物欲を捨てることは難しいが、できる範囲からはじめてみよう。水木しげる『なまけものになりたい』 (河出文庫,800円)