真夜中のプール 2
水面を滑るように泳ぐ彼を眺めてどれくらい経っただろうか。何度目かの往復の後、プールサイドから顔を覗かせて彼が話しかけてきた。「Hi. At beautiful night, don't you think so?」美しい夜ねぇ・・・。さすがだ。笑苦笑しながら答える。彼に近づき、足だけプールに入れて私もプールサイドに座る。近くで見ると、やはり幼さの残る、でも男らしい顔をしている。彼は19歳の韓国系アメリカ人で、両親や従兄弟達と共にバケーションに来ていると言った。私は、仕事で日本から来たと答える。「歳は?」「歳?じゃ、当てて。」少し困って考えた後、彼が口にした歳は実際の私の年齢と一つしか変わらなかった。女性にストレートに年齢を聞けることも、自分より6つも年上の年齢を口にすることができるのも若さゆえの素直な反応として、とても好感が持てる。好きな音楽の話をしたり、趣味の話をしたりして、時間を過ごした。「身体が冷えたから部屋に戻るわ。」 そう言ってプールから上がると、彼は言った。 「明日、従兄弟達と近くのクラブに行くんだけど。一緒に行かない?」 もちろん、答えは・・・・。「ありがとう、でもやめておく。楽しんできてね。」 仕事で来ている以上、彼と一緒のところを上司や仕事関係の人に見られることは絶対に避けなければならない。当時は世界中で欧米人の集まるクラブや教会がテロの標的になっていたこともあり迂闊に近寄るなと会社からも言われていた。彼とクラブに・・・。とても惹かれたが、理性が抑える。部屋に戻ってから、熱いシャワーを浴び、ベッドに倒れこむ。ずっと彼のことが、頭から離れない。行けばよかった。もっと話したかった。もう、2度と会うことはないかもしれない。せめて部屋の番号でも聞いておけば・・・。 同じホテルと言っても、巨大なリゾートホテル。棟も違うだろうし、部屋番号も知らない。 悶々とした思いを抱えて、一晩を過ごした。