カテゴリ:読書日記
ワーキング・ホリデー 坂木司
もとヤンでもとホストのお兄ちゃんの子育て物語。 この本読む前に「ホテル・ジューシー」も読んで、ふたつの物語読んで感じたのが「正しいことがいつも正しいとは限らない。」という主張。 坂木司がうまいなあ、と思うのは、悪人を書かないところ。 結果的に悪かったり、結果的にウソツキだったり、表面にあらわれた出来事が人を傷つけたりもするけれど、どれもみんな、内面でぐるぐるぐるぐる考えた結果だったり、考えただけで動けなかった弱さだったり、感情が理性でおさえこめなかった結果だったりするので、あとでずいぶん後悔するけど、たぶんひゃっぺん繰り返しても、同じ行為をくりかえす。 そんな事件を切り取るのがうまいです。 ときどきは背筋がひやっとするような悪人も出てきますが、主人公のまっすぐなところに負けて、「悪いところ」を見せたりもする。だましとおすことだってできるのに。それでもいい人にはもどらない。 そんな、「どうしようもなさ」も、感じます。 ひきこもり探偵シリーズは確かにボーイズラブ一歩手前な雰囲気あって、苦手な人もいるかもしれないけど(一度ともだちにすすめたら、ものすごく悪し様に言われて落ち込んだ)、坂木司の話は、私は好きです。 やっぱりねえ、莫迦と善人にはかなわないんだよ。 タルトタタンの夢 近藤史恵 フランス料理「パ・マル」で繰り広げられる、料理とお客様にまつわるちょっとした謎の物語。 ほんとにちょっとした謎なので、ミステリっていってもいいのかな?と首をかしげてしまいます。でもまあ、最後の話でちょっと泣いてしまいましたので、作者の勝ちなのでしょう。 短い話が、タタタン、と入っていて、かるーく読めます。 あ、でも、「理不尽な酔っぱらい」はないだろうと思いましたよ。不良学生が母校の甲子園辞退をねらって野球部合宿で酔っ払って暴行事件をおこすってお話なのですが、そのための手段が。もう少し楽な方法もあっただろうに、と思って。嫌な言い方をすれば、野球部に籍があれば、別に合宿でお酒を飲まなくても、居酒屋に入って一気飲みして煙草でも吸えば一発で処分おりるんだから。 けっこう近藤史恵の小説には無神経な人が出てくるので、うすら怖くなるときがあります。目的のためには手段を選ばないんですけど、手段のために目的つくってないですかコレ?みたいなとこがあって。小説のために事件おこしていますね、という感じ。当たり前かもしれないが。 だから現実感が薄い「歌舞伎シリーズ」をファンタジーとして読むのが一番おもしろいです。「二人道成寺」まで読み終わりましたよ。 遠まわりする雛 米澤穂信 ホータローくんの語りは、若年寄風でおもしろいです。今回、ホータローくんはあんまり道化ではなかったし。(「愚者のエンドロール」の印象が強くって。なんだか可哀相なの。) 短編集なのですが、古典部シリーズのなかの一冊、決して番外編ではありません。たぶん。 古典部の男の子たちが自分の内面で新たな局面を迎えたことを自ら認める場面があって、(うわあ思春期ぃ)と読んでいるこちらが弱冠赤面するような。 考えすぎなくてもいいのに、もっとプリミティブでいいのに、と思うけれど、もう考えちゃったからしかたないんだろうな、もうじたばたするしかないんだろうな、と、こっちも困ってしまうのです。 1作、古典部のメンバー内をまるくおさめるために、かかわりのない通りすがりの人を理論上「犯人」に仕立て上げる話があって、いやな気持ちになりました。「犯人」を糾弾する話ではなかったけれど、だから「犯人」は「犯人」と目されたことを知らないけれど、だからって気持ちいい話じゃないです。 誰も見ていない場所で木が倒れ、その木が立っていたことを誰も知らないとき、木が倒れたという事実は存在するかって哲学の問題なかったっけ。ちょっと違う気もするが。でもこれって木の立場になって考えれば、やっぱり倒れてるんですよ。聞こえない悲鳴がなかったことになるわけじゃない。 ホータローくんも後悔してたけど、スケープゴートにしてしまったって、自分でも気づいていたけど、赤の他人だからスケープにできたんだよねホータローくん。カモン・レッドリーフ!と叫びたい。 あ、レッドリーフは「サイン会はいかが」大崎梢 に出てきます。本屋さんの事件簿のお話です。本屋の謎は本屋が解決!本屋さんのお仕事事情もわかって、大変だな、と思う反面、やっぱり憧れの仕事だな、と思うのでした。 野村美月の文学少女シリーズはやっぱりおもしろいです。ラノベだと思って敬遠している人、もったいない! あと、忙しいときには「柿の種」をぱらりぱらり読み返していました。 なるべくせわしくないときに読んで欲しい、と、寅彦先生はおっしゃいますが、先生、先生のご本を読むと、わたくし、せわしくない気分になれるんですのよ。 先生、天上から落ちてくる雫のような短文を、どうもありがとうございます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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