カテゴリ:カテゴリ未分類
水ようかんは野暮でもなんでも、缶に入ったものがいい。
缶のうえに張られた薄いプラスチックのふたをぺこんとはずすと、それだけでふたの内側のつるりとした紙がすべっておちる。 拾い上げる。 お皿に盛られた水ようかんの写真には、笹の葉がそえられている。 紙のしたにはプラスチックのおさじ。持つ手のところにぎざぎざがついていて、逆手に持つと、切り分けもできる。が、水ようかんを切り分けたことは一度もない。 缶のふたはこどもの力でも引くことのできるプルトップで、ぺたんと座り込んで慎重にふたを引く。 手がまるいふちに触れると切れるんじゃないかと、どこかひやりとする金属のにおい。と、水のにおい。 プルトップの下のあたりの水ようかんは、ほんの少し沈み込んでいて、じっくりと甘い水滴がたまっている。 おさじをいれて、さっくりとすくう。 あんまりたくさんをいっぺんに口に入れると喉が甘くなるから、薄くすくって、おさじを舐めるように食べる。 するりと溶けるのに、ざらりと心地よい名残が舌に残る。 缶入りの水ようかんを食べるのはいつでも昼過ぎで、開け放しの座敷を風が通り過ぎていく。 水ようかんを食べていた頃、私は人の悪口を言ったことがなかった。 ずいぶん遠くまで来た。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
|
|