テーマ:幻想的ナ物語ノコトナド(100)
カテゴリ:創作
森の奥に住む父に、虹をつかまえる方法を聞きにいった。
母がお土産に持たせたのは、ぶどうジュースの入った壜と固いパン。 僕が来ることを知っていた父は、小屋の前に立って僕を待っていた。 大きなリュックをしょった僕は、両手で手を振って、父に答えた。 虹をつかまえる方法についてたずねると、父は僕にちょっと待っているように告げ、小屋の前の丸太の机と腰掛を手で示した。 腰掛けて、足をぶらぶらさせて空を見る。 空はうすい水色をしていて、虹をつかまえる実験はまだできないな、と思った。 もう少し、強い夏がくると、夕立が降る。 そうしたら虹をつかまえよう。 虹の橋を、父と母のあいだにかければ、また僕達は一緒に暮らせるのかもしれない。 白い雲が、ひとひら、ふたひら、流れていく。 「おまたせ。」 父がコーヒーカップをふたつ持ってあらわれた。 僕にひとつのカップをくれる。 「ありがとう。」 カップの中を覗きこむと、カフェオレだった。 「虹はね、おとなになれば、つかまえられる。」 まじめっぽい口調で父は言った。 「ほら、」 父は自分がもっているカップを指し示した。 ブラックコーヒーは、かたむけると、表面の黒に光をうつした。 「よく見てごらん。虹の七色がみつかるだろう?」 息をこらして眺めた僕は、色をみつけて、こくんとうなずいた。 すると父は、カップを持ち上げて、コーヒーをのんだ。 「ごめんな。虹は、父さんの、おなかの中だ。」 また逃げられたなあ。 僕は思う。 父は今度は、大きなプレートを持ってきた。 母が持たせた固いパンがざくざくと切ってあり、父の手製の野いちごのジャムが添えてある。 やっぱり僕は、不幸ではない。 パンをかみ締めて、少し笑った。 あかるい午後が過ぎていく。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008年06月07日 13時14分45秒
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