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タッチ ダニエル・キイス 秋津知子訳 早川書房 SFでもミステリでもなくて。 ・・・ こどもが欲しいのになかなかこどもができなくて、夫婦間の感情がデリケートになってきているところ、夫の勤め先の自動車会社で放射能物質にかかわる事故が起きる。同僚がその事故に関わっており、いっときは不安になるが、大事故になるまえに放射能漏れは防がれた……はずだったたのに! 数週間たってから、同僚の両手が火傷したように腫れあがる。 夫の腕には湿疹。 妻の胸にも。 空調のダクトから、放射能を帯びたチリが同僚のデスクに落ちていた。 ・・・ すごく怖い話でした。被曝が怖いだけじゃなくて。差別が。 被害者であるのに、被曝していることに気がつかない夫婦の訪れたところに、放射能ちりが落ちて、彼らは同時に加害者にもなる。 事故を起こした会社が営業を停止に、地域がさらなる不景気に追い込まれるのも、彼らのせい。 美容院に来ないで。ガソリンスタンドに来ないで。スーパーに寄らないで。病院にも来ないでちょうだい!ここには私たちの大事な家族もくるんだから! 体調はずっとよくない。 夫の目はだんだん見えなくなっていく。 妻の吐き気はおさまらない……ああでも、これは被曝のせいだけじゃなくて。もしかして。 事故の直前に妻は妊娠していた。 今からは事故の影響で子は望めない。 どうする? 夫婦間の、ずっと待ち望んできた、最初で最後のお腹の中の赤ちゃん。 ・・・ この小説で起きる事故は、原発施設の事故ではなくて、自動車会社の事故。自覚なく、すぐそばにあった、放射性物質。 原発事故は公表されるが、他の会社や工場の事故はあまり知られていないのではないか。 キイスは警鐘を鳴らします。 あとがきと付録が一番怖かった。 産業施設の放射能事故の影響、放射性物質の不適切な廃棄や犯罪者やテロリストによる盗難の事実が、たんたんと並べ書きされていて。 廃屋の診療所の機材を始末していると、きれいな青い粉がさらさらこぼれた。その青い色のカプセルを近所の男に売った。夜になると神秘的に光る。みんなを集めて観賞会をした。まもなく、誰か、死ぬ。 書かれたのは1968年。放射能汚染の広がり方や放射能障害の出方について、当時の知識で書かれているため、少し古いところもあるそうです。 でも、付録でたんたん報告されていた事実は変わらないんでしょう。 とても、怖いです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010年06月07日 07時15分42秒
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