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夏休みに学校に行くのが好きだった。
いつもより人がずっと少なくて、だけど空気はざわざわしている。 午前中には補習があって、午後から部活。午後からの人口密度は午前中よりもっと低い。 学校は山の上にあったから、校舎の5階はとても高いところにあった。 教室の広い窓から遠く見える太田川は、家々の屋根のなか、うすい水色になって存在していた。 部活に参加しなくなってからも、ずっと学校にいた。 おひるごはんに空き教室でパンを食べて、牛乳を飲んで、図書室で本を読んで、3時間くらいは受験勉強もした。 夏休みに毎日学校に来る人はなんとなく決まっていて、使う教室もなんとなく決まっていた。 廊下を歩くとき、ひょいととなりの教室の中を見る。あ、今日も来てるな、なんて思う。理系のクラスの男子と目があったりする。夏休みじゃないときにはそのまますれ違うのに、このときだけは、手を振ったり、笑ったりする。名前も知らない。 夕立の前には風が強く吹いた。 問題集のページがまきあがり、筆箱で抑える。 その頃の私の髪は長くて、風の強いときにはほどいて、髪を風で洗った。翼のようだと言われたことがある。乙女の自意識で恥じらったけど、嬉しかった。 夏休みが終わる頃、教室の掃除をした。少人数で使っていたのに、びっくりするくらいほこりが積もっていた。理系クラスの男子が手伝いにきてくれた。こちらも手伝いにいった。 2学期になると、もうその男子が誰なのかもわからなくなった。たくさんの中の、一人。あなたも、わたしも。 空に近いところに学校はあった。 5階と5階の校舎をつなぐ、4階建ての校舎の屋上。渡り廊下がわりの屋上の上には空しかなくて、風がいつも強かった。 何者でもなかったけれど、自由でいた。 悪い学校じゃなかった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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