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2010年10月19日
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カテゴリ:カテゴリ未分類
昼過ぎに、アスファルトから別れた側道に座り込む婦人をみかけた。
膝を折り込むようにして、土の道に横座りしている。

「どうかなさいましたか?」
携帯電話をさぐりながら声をかけた。
「足でもくじかれましたか?」
返答次第では救急車を呼ばねばなるまい。
婦人は白い面をあげて、ふわと笑った。
一瞬、乙女に見えた。
あどけない表情のまま、婦人は言った。
「銀木犀の香りを楽しんでいるのです。」
「いやしかし、金木犀の方が香りは良いでしょう。」
私は来し方を振り向いた。民家の玄関先に幾本かの金木犀が連なっている。
婦人は静かにうなずいた。
「ええ、だからわたくしは、銀木犀の香をかぐのです。」
明るい顔で笑った。
「誤解はなさらないでくださいませ、わたくしは金木犀も等しく好きでございます。けれど、銀木犀は淋しくはないだろうかと一度思えば、わたくしは、この木に寄り添っていたく思うのです。」
私は婦人にひとつ会釈した。白い十字の花が婦人の頭に落ちているのを見て、微笑ましく思った。


数日後、私は同じ場所を通りかかった。婦人はいなかった。
真っ白い小さな十字の花が無数に散っている。





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最終更新日  2010年10月20日 06時18分56秒
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